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36-4 フレアの選択(1)

 銀の王都

 フレアは潜伏先の廃工場の事務所で、今後のことを考えていた。

(どうする。 私は今キングメーカーだ。 シーウエイでもギリオンでも王にすることができる。 望めば私自身さえ・・・) 王都は現在、ギリオンがほぼ制圧していると言っても過言ではなかった。 バラス王は用心深く、シーウエイが切れ者すぎる故に、シーウエイに権力が集中過ぎることを嫌っていた。 そのためシーウエイは、内政、外交関係ではトップだったが、軍においてはギリオンの下だった。 ギリオンが総司令官で、シーウエイは将軍ではあったが、参謀という役割が大きかった。 ギリオンは先の戦いでバラス王が重体になると、軍に対して自分の立場の強化に努めていた。 それに対してシーウエイは黄と緑の戦いにおいて、敗戦のみならずバラス王に怪我を負わせるという失態のため、レギオンでの地位が揺らいでいた。

(どちらにつくか。 私にとってどちらが得か)


 部下が慌てて報告に来た。

「フレア様、ここが兵に囲まれました。 我々だけでは突破は難しいかと・・・」

「分かった。 意外と早かったな」 窓の隙間から外を覗くと、暗闇の中を密かに動く無数の人影が見えた。

「どうしますか」

「もう少し待とう。 じきにギリオンが来るだろう」


 1時間後、外から拡声器で呼びかける声がした。

「フレア、いるのだろう? 話がしたい」予想通りギリオンだった。 フレアはポケットから時計を取りだして時間を確認した。 それから天聖球の箱を持って外に出た。

「話は何でしょう、ギリオン殿」

「お前が天聖球を持っていることは分かっている」

「確かに、ここにありますよ」 フレアは箱の取っ手を持ち上げて、箱を示した。

「おお、それを渡すのだ。 それは私の物だ」

「これは異な事を、私はバラス王から天聖球を託されたのだ。 これを誰に渡すかは私次第だ」

「次の王は私しか有り得ない。 シーウエイではこのレギオンはまとめられない。 それとも、お前自身が王になろうなどと思っているのではあるまいな」

「私とて自分の力量はわきまえているつもりだ」

「ならば、素直に私に渡せ。 そうすれば悪いようにはしない。 お前を私の筆頭のサムライにしてやる」

「なかなか悪くはないな。 ギリオン殿、一つ伺いたい。 貴方は王になられたらどうするおつもりですか」

「そんなことは決まっている。 バラス王の意志を引き継いでこの大陸を制覇する」

「なるほど、バラス様が出来なかったことが、貴方にはできるということですか」

「もう良いだろう、天聖球を渡せ。 さもなくば窃盗犯として逮捕させることになるぞ」

「今度は脅しですか。 とりあえず話は伺いました。 シーウエイ殿の話も聞いた上で決めさせていただきます」 フレアは時計を見て、空を見上げた。

「何だと、そんなことをさせると思うか。 力ずくでも渡してもらうぞ」 それに合わせて、銃を持った兵達が囲みを狭めてきた。 フレアの側には三人の部下がいるだけだった。


 フレアは右手を空に向けて突きだした。 すると、フレアの体が空中に浮かび上がった。 フレアの部下達も同様に浮かび上がった。

「ギリオン殿、また会いましょう」 フレアは笑った。 ギリオン達が夜空を見上げると、そこには飛空船が浮かんでいた。 フレア達は飛空船から垂らされたロープにつかまり浮かび上がったのだった。 回りの兵達が銃を撃ちはじめた。

「バカ者、撃つのをやめろ。 天聖球に当たったら元も子もないじゃないか。 すぐ追わせろ」ギリオンは部下に怒鳴った。 


 飛空船に乗り移ったフレアは、船長に言った。

「時間通りに来てくれて助かった。 ガレス島に向うぞ」

「はっ」船長は直ちに飛空船の進路を北東に変えた。 その側には10隻のフレア配下の飛空船が従っていた。


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