36-2 赤への侵攻(1)
二日後、俺はユウキと供にギルダのところへ行った。 ヒョウマも呼んだ。
「銀のバラス王が亡くなりました。 銀は今、内乱が発生しようとしています。 黄には赤のレギオンを攻めてもらいたいのです」
「それはまた急ですね」とギルダは驚いた。
「スピードが肝心なところです。 今ならば銀は新たな王が決まらず、赤に援軍を送る余裕はありません。 しかし悠長にことを進めていれば、銀の政情が落ち着き援軍を送って来るでしょう。 そうなればこちらが勝つのは容易ではなくなります」とユウキは説明した。
「なるほど、しかし我々が出せる兵は3万ほどです。 向こうは確か6万ほどの兵がいるはずです。 我々だけで勝つことは出来ないでしょう」とギルダは難色を示した。
「それは分かっています。 緑から3万、青から5千を送ります」
「申し訳ないが、白からは送れない。 先の戦いの後遺症でまだ軍が再編しきれていない」とヒョウマは申し訳なさそうに言った。
「分かっています。 赤の王はどのような方ですか?」
「グラスか、そうだな実直な男だ。 民想いの厚い奴で人望もある」
「そうか。 ヒョウマに頼みたいのは、グラス王の説得だ。 できるだけ無駄な血は流したくない」
「なるほど、だがアイツは一度俺との契約を解除しているので、二度目にはかなり抵抗があるだろう。 やってはみるがあまり期待しないでくれ」
「たのむ」
「では、こちらは準備ができ次第、出兵いたします」とギルダ。
3日後、ギルダはルークと供に3万の兵を率いて、赤の王都を目指して兵を発した。 俺は同時にセシウス達に準備を進めさせていたが、準備が整うとゲートでギルダ達のところまで送った。
それから10日後の夕方、俺達は赤の王都の郊外まで到着した。 グラス王は野戦を選んだ。 6万全軍で迎え討つつもりのようだ。 両軍は赤土が広がる荒野に1キロほど空けて対峙した。 戦いは翌朝だ。
「では、行ってくる」ヒョウマはそう言うと、空に浮かび上がり赤の本陣まで飛んで行った。
赤の本陣
「グラス様、ヒョウマ王がお会いしたいと、お一人でいらっしゃいました」と兵が知らせた。
「そうか、ご案内してくれ」 グラスは、まるで予想していたかのように驚かなかった。 ほどなくヒョウマが、まるで友人のところへでも来たように現れた。
「よう、久しぶりだな」とヒョウマ。
「お久しぶりです。 どうぞおかけください」 グラスに椅子を勧められ腰をかけると、部下がテーブルに酒の入った杯を二つ置いた。 ヒョウマはすかさず目の前の杯を取ると、一気に杯を空けた。 グラスはそれを見ながら笑った。
「相変わらずですね。 もしその杯に毒が入っていたらどうするのですか」
「お前はそんなことはしないさ」ヒョウマは笑った。
「ご用件を伺いましょう」 グラスはあきれたように言った。
「率直に言う。 カケル王に降れ、無駄な戦いはお互いのためにならない」
「簡単に仰る。 貴方に敗れて白について、その後銀についた。 そして今度は緑ですか、何と節操のない奴と笑われるでしょうな」
「そんなことを気にしている場合か。 この大陸の趨勢は決まりつつある、緑の軍勢は強いぞ」
「そう言われては尚更こちらも退けませんな」
「ひねくれ者め。 ではどうしても戦うつもりか」
「私にも意地がございます」とグラスはキッパリと言った。
「はあーっ、そう言うと思った。 分かったよ」 ヒョウマは立ち上がりかけた。
「お待ちください。 お願いがございます。 ヒョウマ様、私と戦ってください。 そして私が勝ったら、軍を退いてくれるようにカケル王を説得していただきたいのです」 グラスの決意は固かった。
「分かった、お前が勝ったら軍を退こう。 だが俺が勝ったら赤はカケル王に降るんだ」
「即決って、カケル王にはからなくてよろしいのですか」
「俺はカケル王の代理として来ている。 使いっ走りじゃないんだよ。 そっちこそ約束守れよ」
「それは勿論です。 サツカ聞いていたな」グラスは壁際に立っていたサムライに言った。
「はい」
「では、明日だ」ヒョウマは立ち上がると、帰っていった。