36-1 バラス王の死
翌年の2月、緑のレーギア
「バラス王が亡くなられました」とザウフェルがユウキに報告した。
「何だって、いつです」
「5日前です。 カケル様と戦われた後、怪我の回復が思わしくなかったようですが、ついに亡くなられたようです」
「それで、次の王は決まったのですか?」
「いいえ、まだです。 シーウエイが次の王になると目されていたのですが、もう一人のサムライ、ギリオンが異を唱えているそうです。 銀の王都内では、人々が内乱になるのではと危惧しております」
「バラス王は次の王を指名しなかったのか」
「その辺の経緯は良く分かりません」
「分かりました。 ありがとうございます」 そう言うと、ユウキは考え込んだ。
5日前、銀のレーギア
フレアはバラス王に呼ばれていた。 バラス王は青白い顔でベッドに横たわり、別人のようだった。
「フレア参りました」
バラスはゆっくりと顔を横に向けると、手を静かに挙げて横に座るように促した。 フレアはベッドの横の椅子に座った。
「余は・・もうダメだ。 余が死んだら・・・次の王の選択は、・・お前に任せる」
「何ですって。 バラス様お気を強くお持ちください」
「自分のことは、・・・良く分かっている」
「何故、ご自身でご指名なさらないのですか?」
「シー・・ウエイを指名すれば・・・ギリオンが・・・納得しまい。 逆も・・・またしかりだ。 余はもう、・・・考えることも苦痛なのだ。 フレアに判断を・・・まかせる」 そう言うと、バラスは震える手でテーブルの上の箱を指さした。 そしてそのまま眠るように意識を失うと、その日の夕方には亡くなった。 フレアはその日の内に天聖球と共に姿を隠した。
ギリオンは王が崩御した事を知ると、すぐに天聖球を探したが見つけることが出来なかった。 ギリオンはすぐに軍を動員し、フレアとシーウエイの逮捕を命じた。 ギリオンは次の王は自分だと思っていたが、天聖球がないのはシーウエイかフレアが手を回して奪ったのだと考えたのだった。 シーウエイは地方の都市で工場の爆発事故がありその対応に追われていたが、王が崩御した事を知ると即座にそこに派遣されていた2千の兵の指揮権を掌握した。 そして最も近い軍事基地のガレス島に立て籠もった。
藍のレーギア
俺が執務室でスウゲンと話をしていた時、ユウキが入って来た。
「どうした、緊急事態か?」
「銀のバラス王が亡くなられました」とユウキ。
「えっ、あの戦いのせいか?」
「恐らくその怪我が良くならなかったのでしょう」とユウキ。 それを聞いたスウゲンは目を細めた。
「それで、何が問題なのだ?」と俺は聞いた。
「今が赤を攻める好機です」とユウキ。
「えっ、なぜ?」
「バラス王は次の王を指名しなかったようです。 そのためにこれから銀は、次の王をめぐって内乱状態になるでしょう。 そうなれば赤が攻められても、とても援軍を派遣するどころではありません」
「そんな、弱みにつけ込むようなことを・・・」
「戦とはそういうものです。 私も賛成です」とスウゲン。
「スウゲンまで・・・」
「カケル様、この長引く戦乱を早く収めるには、均衡状態を崩してやる必要がございます。 今がそのチャンスです。 赤を屈服させ銀を孤立させれば、次の王との交渉もやりやすくなります。 そして銀をこちら側に引き込めれば、背後の心配をすることなく紫と戦う事が出来るのです」とスウゲン。
「それしかないのか、分かった作戦を立案してくれ。 だが赤の王を説得することも考えてみてくれ」俺は二人に指示した。
「承知いたしました」とスウゲン。