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3-22 レーギア

「さて、我々もそろそろ出発しなければならない。 疲れているだろうが、もう一踏ん張りしてくれ。 アンドレアス様がテリトリーの外まで迎えを出してくれるそうだ。 今日中に帰れるぞ」

「たいした物は用意出来ませんが、朝食だけでも食べていってください」 村長がそう言った。 我々はその好意に甘えることにした。


 その日の昼前、遠くに森が広がっているのが見えてきた平原の中に何かうごめく一団がいるのが見えた。 それは近づくにつれて、4頭の大きな竜と馬車のように見えた。 ジュリアンがそれを見つけると言った。

「どうやら、あれのようだな、飛竜車をよこしてくれている」

 青みがかった灰色の象のような巨体の、翼を持った竜が4体とその真ん中に紺色の豪華な馬車のようなものがあった。 その近くに4人の兵士のような人間が立ってこちらの到着を待っているようだった。 顔が判別できるくらいまで近づいた時、その内の一人が近づいて来た。

「ジュリアン殿、待っておったぞ」 長身の40代の色白の男が話しかけた。

「グローブス殿ではないか、あなたが自らいらっしゃったとは恐縮です」

「なに、森の賢者様とレギオンの重要な客人ともなれば当然です」

「ところでレーギアで何か変わったことはありませんか」

「レーギアに着けばどうせ知れる事だから言うが、実はオークリー様が亡くなられた」 男は暗い顔で言った。

「なんと、やはりそうでしたか」

「みんな薄々感づいているが、アンドレアス様はまだ皆に伏せよと仰せだ」

「わかりました」


 全員が車に乗り込んだ。 グレンが乗り込もうとして近づいた時、近くの飛竜がビクッと驚いた。 他の3頭もそわそわし出して落ち着きが無くなった。 グレンが飛竜を睨むと更に固まって動けなくなってしまった。

「なんと、ドラゴンですか。 普段大抵の事には動じないこいつ等がこんなちび助に怯えてしまうなんて」 グレンが車に乗って姿が見えなくなるとやっと落ち着きを取り戻したのだった。 グローブス他の兵士たちは4頭の飛竜にまたがり同時に静かに飛び立った。 飛竜の腹部に繋がれた太い鎖が車の4隅につながっていて車を持ち上げた。 この飛行には4頭の連携した動きが重要であり、熟練した飛竜乗りにしか許されなかった。 ぐんぐん高度を上げ前方に高速で飛行していった。 眼下には広大な森林地帯が広がっていった。


「黒ニャン、今飛んでいる竜とドラゴンて、違うのかい」

「全然違うと言っても良いくらい違う。 姿形は似ているかも知れないが、人と猿ぐらいの違いがあるのだ。 飛竜や騎竜もある程度の知能があり、人になれ飼育して人が使役することができる。 しかしドラゴンは知能がすごく高く、基本人が飼い慣らすことは出来ない。 そしてドラゴンは人と会話することができると言う」

「そうなのか、じゃあそのうちグレンと話しができるようになるかもしれないな」

「そうだな、私が見る限り、グレンはカケルの言っていることの大部分を理解しているように見える。 実に賢い子だ」 グレンはクロームの言ったことが分かったかのように、「グオウ」と鳴いた。

「クローム様、グローブス殿の話しでは、シローネ様達は昨日到着されたとのことです。 もうすぐお会い出来ますね」

「そうか」 とだけクロームは答えた。

(問題はこれからだ、はてさてどのような展開になるのだろう。 いずれにせよここまでかかわったのだから、結果を見届ける責任があるだろう) クロームは、窓から広がる景色を見ている二人の若者の顔を見た。


 2時間弱ほど、広がる森林や山を延々と飛行したころ、前方に森の開けた部分が見えてきた。 白い巨大なキノコとその3方を囲むように少し小さなキノコのような建物が見えた。 その東、南、西の方角には広げすぎた扇のように市街地が広がり、北側だけが開けた空き地になっていた。 更にその外側に農地が広がっていた。 よく見ると都市の東側少し離れた岡の上に石造りの三角錘のピラミッドのような建物があった。 その丘のふもとには規模は小さいが市街地が広がっているようだった。

「あのキノコのような建物がお城かい」 俺は向かいに座っていたエレインにたずねた。

「ああ、あれがレーギアだ」

「その東の三角形のやつは何ですか」 上代がたずねた。

「あれは、初代が建てた旧レーギアだ。 今は通常は使われていない」


 やがて飛竜たちは、レーギアの北側の空き地に静かに車を着地させた。 車を降りると、そこに5人の衛兵が待っていた。 俺たちに続いてグレンが降りてくるのを見て、衛兵達は驚いたようすだった。 指揮官と思われる兵が、ジュリアンに挨拶すると言った。

「アンドレアス様がお待ちです。 クローム様、ジュリアン殿以下3名はお疲れのところ申し訳ないが、先に報告を済ませてほしいとのことです。 ご客人は客室にておくつろぎいただくようにとのことです」

「承知した」 ジュリアンは返答すると、ホーリー、エレイン、クロームの4人で、案内する衛兵について行った。 俺と上代とグレンは残った衛兵の案内で建物の方へ向って行った。 案内役の衛兵達の会話が聞こえてきた。


「おい、あれどうする、ドラゴンだろう。 レーギア内に入れる訳にいかないぞ」

「とりあえず竜舎に入れるしかないだろう。 建物内に入れて火でも吐かれて暴れられたら首が飛ぶぞ」

「こいつはおとなしくて賢いやつなんです。 暴れることはありません。 私と一緒の部屋にいれてもらえませんか」 俺は衛兵たちにお願いした。

「ダメだ、ダメだ、これは規則だ。 それがイヤならお前がそいつと一緒に竜舎で暮らすんだな」 その時、すぐそばを白い長い髭を蓄えた小柄な老人とそれにつきそう若い男が通りかかった。


「おお、これは珍しい、ドラゴンではないか。 しかも見事な黒竜だ」 老人がグレンを見て驚いた様子で話しかけてきた。

「これはそちらの御仁のお連れかな」 俺に向って言った。

「はい、そうです」 俺は答えた。 老人は衛兵に向って言った。

「このドラゴンはどうするつもりかな」 すると衛兵は直立不動の姿勢で答えた。

「はい、建物に入れる訳にもいきませんので、竜舎に入れようと相談していたところです」

「それはいかんぞ。 ドラゴンは気高い存在だ。 そんな所に入れたら、気を悪くしてどこかへ行ってしまうだろう。 それに、騎竜や飛竜の方が怖がって暴れてしまうぞ」

「それでは、いかがすれば良いでしょうか、グレアム様」 衛兵は老人に懇願するようにたずねた。

「ドラゴンがこのレギオンに来るなんて、初代のゴードン様以来じゃ、これは吉兆に違いない。 私が許可する。 その御仁と同じ部屋に入れて差し上げなさい。 そして人と同じように接して行きたいところへ行かせてやりなさい」

「はい、かしこまりました」

「あなた方が、森の賢者様がお連れした方々ですね」

「はい、そうです」 上代が答えた。

「うむ、良いお顔立ちだ、それでは後ほどまたお会いしましょう」 と言うと2人で大きなキノコ方へ歩いて行った。


「良かったな、一緒にいられるぞ」 俺はグレンに向って言った。 また衛兵について大きなキノコの立派な入り口の方へ歩き出したが、そこでもう一人の衛兵が、俺に向って言った。

「お前達はそっちじゃない、こっちだ」 右の小さなキノコの方を指さしていた。 俺とグレンだけ小さい方の建物の裏の方のドアから入るように指示された。 その衛兵は、中の中年の女性に事情を説明し、先ほどの老人の指示を伝えた。 女性は頷くと俺たちを中の一室に案内した。


 俺たちが飛竜車から降りて建物に入るまでのところを、建物の上層階の別々窓から見ていた2人の男がいた。 一人は茶色の短い髪の男だった。 窓際に立ち、お茶のカップを持ちながら見ていた。 話しのやりとりまでは聞こえなかったが、彼らが同じ世界から連れてこられた人間であることは分かった。

(2人? 2人ともなのだろうか、それとも片方だけなのだろうか。 一人はドラゴンを連れていた。 オイオイ、シローネの話じゃドラゴンなんて滅多に会えないし、人になつかないって言ってなかったか。 まあいい、面白い事になりそうだ)

 もう一人は金髪の長身の男だった。 窓から外の様子を見ながら、唇をかんだ。その後ろには3人の男が並んで控えていた。 一人の男の左手には包帯が巻かれていた。 金髪の男は振り向くと3人の男達に罵声を浴びせた。

「どいつもこいつも、役に立たぬ奴らだ。 あんな弱そうなガキどもも殺せないとは」

「申し訳ございません、ロレス様」 男達はうなだれた。

「こうなったら、直接アンドレアスと交渉するしかないではないか。 いずれにしてもアンドレアスの思い通りにはさせん」


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