35-6 ホワイトキューブの奪還(2)
俺はヒョウマ達の戦闘が気になり、戦場まで飛んで行った。 白のレギオンは1万3千対4万にも関わらず善戦していた。 と言うよりも押していた。 紫の軍勢は集団としてのまとまりがとれず、足下に注意が行き過ぎて、効果的な攻撃ができずにいるようだった。 レグナ族と氷塊兵によって軍勢がかき乱され、押し出された兵が白の兵達に狩られるという状況だった。 そこに王都から撤退した8千の兵が合流したが、状況は好転したとは言いがたかった。 逆に王都が奪還されたと知り、士気は下がったように見えた。
「クソッ、こんなはずでは・・・・」 アレンは王都が奪還されたことを知り、どうすべきか考えていた。 その時コーレンとバルリがやって来た。 紫の軍勢はもう右翼も左翼もなく一塊になっていた。
「アレン、どうします。 もう立て直すのは難しいですよ」とバルリ。 その時アレン達の上空にヒョウマが現れた。 俺もそちらに向った。
「久しぶりだな。 約束どおり借りを返しにきたぞ。 王都は返してもらった」ヒョウマはアレンに言った。
「そうか、だがお前がノコノコ出てきたおかげで、こちらにも勝機が見えた。 お前をこの場で殺せばいい」 アレンはそう言って右手をのばした。 すると左手から無数の青い光の矢が飛び出し、ヒョウマを攻撃した。 しかしヒョウマはそれより一瞬早く瞬間移動し、次の瞬間にはアレンを殴り倒していた。 アレンの体は後方の地面に叩きつけられたが、回りの雪が地面も含め爆発したように吹き飛んだ。 それを見たコーレンとバルリが同時に攻撃をしようと構えた。
「動くな! 動けば殺す」 俺は二人に言った。 二人は、凍り付いたように固まって動けなくなった。 アレンはゆっくり体を起こして、よろめきながらも立った。
「今のはオマケだ。 お前達は殺さない。 だがこれ以上変なまねをすれば、命の保証はしない。 お前達の負けだ、とっとと尻尾を巻いて帰るがいい。 俺達は優しいから追撃はしない。 だがこの状況下で果たして何人が紫の王都までたどり着けるかな」
「クソッ、俺達は必ずもう一度ここを攻め落とす。 そして今度こそお前を殺す」とアレンはヒョウマに言った。
「撤退する」 アレンはコーレンとバルリに言った。
白の王都は、寒さとは逆にある意味熱気に包まれていた。 レギオンの兵達は凱旋し、家族と離ればなれになっていた者達は、家族との再会を喜んだ。 俺は緑の兵達を帰すと、ヒョウマとともにレーギアに入り、レーギアの人達を紹介された。
紫の軍勢約3万は、雪の中を西に向って歩いていった。 行軍は遅々として進まず、食料もない状況では3日と待たずに全滅するだろう。 その日の夕方、王都から20キロほど西に進んだところで異変が起きた。 アレン達の目の前にゲートが開いた。 中からは黒いローブ姿の小男が出てきた。
「カウレイ殿、どうしてここに・・・」 アレンが驚いて尋ねた。
「バカ者、お前達の戦いは見ていた。 このままではラウエル様からお預かりした兵達を全て死なせることになるぞ」
「申し訳ございません。 私の失態です」とアレン。
「しかし、カウレイ殿はどうしてここに来ることが出来たのですか? 縮地門は一度行ったところにしか開けないはずでは・・・」とバルリ。
「バカ者。 普通はそうだが、それはきちんと行き先をイメージ出来ないからだ。 儂はずっとお前達を見ていた。 だからその場所に行くことが出来るのだ。 そんなことはどうでも良い。 さあ帰るぞ。 アレン、ラウエル様のおしかりは覚悟せよ」 カウレイはそう言うと、巨大なゲートを開けると、3万の兵を一度に紫の王都へ送った。




