35-5 ホワイトキューブの奪還(1)
その年の12月、白の王都に初雪が降った。 降り始めると3日間降り続き、積雪は2メートル近くになっていた。 兵の宿舎はホワイトキューブの西500メートルほどのところにあった。 アデル族の兵達は総出で近辺の除雪を行なっていた。 紫のレギオンのテリトリーも冬に雪は降るが、これほどの大雪になるところは少なかった。
異変はその時起こった。 白い巨人達が南から王都へ迫っているという報告が入ったのだ。
「ヒョウマ王が攻めて来たのか?」とコーレン。
「それしかないないだろう。 レグナ族の連中は『白の王にしか従わない』と言うのだから。 まったく忌々しい」とアレン。
「それでどうするの」とバルリ。
「迎え討つしかないだろう。 奴ら、こんな状況なら我らが力を発揮できないと思っているのだろうが、アデル族をなめたことを後悔させてやる」
「では、王都の外で戦うのか」とコーレン。
「ああ、王都の中での戦いは避けたい。 準備をしてくれ」
「わかりました」とバルリ。
レグナ族3千が、雪をかき分け進軍してきた。 その後ろにはヒョウマとガーリンが率いる1万のレギオン兵がしたがっていた。 レギオンの兵達は寒さに強い上に厚い毛皮の防寒対策が施されていた。 アレン達は王都の南側で陣を構えた。 本陣に2万、右翼のコーレンに1万、左翼のバルリに1万の兵を配し、そして王都に1万の兵を残したのだった。
「良いか、今日こそ王都を取り返す。 虐げられた家族や友人達を解放するぞ」 ヒョウマは兵達に檄を飛ばした。
「おおおーーーっ!」 兵達の士気はずっと待たされていたため、士気は高かった。
天候は晴れていたが、常識的に考えてこのような状況での戦闘は有り得なかった。 深い雪で身動きもままならない、敵の位置も把握しづらい、寒さで体もこわばっている、このような悪条件での戦闘は壊滅する恐れさえあるのだ。 だがそれは敵も同じだ。 そしてヒョウマはあえてこのような条件下での戦いを選んだのだった。 ヒョウマは氷塊兵と呼ばれる氷のゴーレムを多数造ると、レグナ族の兵達とともに先陣を切らせた。
ヒョウマは空中に浮かび上がると、紫の右翼に火球攻撃を加えた。 それが攻撃開始の合図と攻撃目標の指示だった。 レグナ族達は一斉に右翼に攻撃を開始した。 コーレンの部隊は防戦一方になった。 レグナ族の振るう巨大な棍棒と氷塊兵の圧倒的なパワーに押されたのである。 アデル族にも巨人族はいるが、慣れない雪と寒さに思うように身動きがとれず、本来の力の半分も出せなかった。 アレンの本陣とバルリの左翼は横から攻撃しようとするが、雪が邪魔して思うように近づけなかった。 ガーリン達はレグナ族の間をすり抜けて来る敵兵達を攻撃していった。 驚異的な戦闘力を誇るアデル族も、やはり本来の力が発揮出来ずに次々に討ち取られていった。
アレンの部隊が白の軍勢に攻撃開始する頃には、右翼は壊滅状態だった。 ヒョウマはアレン達に氷塊兵をぶつけて軍勢を足止めさせると、ガーリン達にアレン達の背後を襲わせた。 バルリ達は敵を少しの間見失い、どちらに進むべきか躊躇していた。
王都内部でも異変は起きていた。 王都の街中に緑のレギオンの兵が突然現れたのだ。 俺は二度に分けて2万の兵を送り込んだ。 防寒対策を施した兵達は、慣れない環境ではあったが、良く戦い紫の兵達を追い詰めていった。 更にその様子を見た街中の人々が、立ち上がり紫の兵達に攻撃を加えた。 紫の兵達は街中いたるところで攻撃されるため、指揮官は王都を維持出来ないと判断し、アレン達がいるところへ合流しようと王都から出ていった。 こうして王都は開放されたのだった。