34-8 黄の王都攻防戦(5)
緑と黄の連合軍と、銀との攻防は、まるで牛の群れを襲う狼の群れのようだった。 牛が追い払おうとして狼を追うと、狼が逃げ出し別の狼が背後から攻める。 牛が怒り、平静を失うほど狼の術中にはまる。 次第に銀の軍勢は広く広がり、次第に兵を削られていった。
「ええい、広がるな。 集まって態勢を立て直すのだ」 セシウス達の意図を理解しているシーウエイは部下に命じた。 やがて兵達が集まると、7万ほどに減っており、多くの者達が負傷していた。
「どうするのだ、シーウエイ」 バラス王が苛立ちながら言った。
「攻城戦に集中します。 背後への備えはしますが、奴らの挑発には乗りません。 王都が落ちれば、緑の奴らは退却するでしょう」
「分かった。 ならば城門は私が開けてやろう」とバラス。
「バラス様、もしやアレをお使いになられるのですか」
「そうだ」
「しかし、あれは制御が難しく、暴走する危険がございます。 お止めください」
「今はそんなことは言っていられないだろう。 大丈夫だ」
東門の城壁の上
俺はミーアイ、ギルダ、ユウキとともに戦いの成り行きを見守っていた。 セシウス達を追っていった銀の軍勢が戻ってきた。 そして城壁の500メートルほど手前で全軍停止した。
「おそらくこちらを攻めることに専念するつもりなのでしょう」とユウキ。
「あれは? 何か変な格好の人がこちらに歩いてきますわ」とミーアイ。
俺は目を凝らして見た。 男が全身に機械のような物を装着していた。 近づいてくるにつれ、様子が分かってきた。 銀色の鎧のようだがよく見ると、腕や脚に細いシリンダーやチューブ状の物が付いており、まるでSF映画に出てくるロボットのようにも見えた。
「あれはロボットか?」 俺はユウキに聞いた。
「いいえ、あの動きから見ると、人が機械を装着しているのでしょう」
「あれで、どうしようと言うのでしょう」とギルダ。
男は門の100メートルほど手前で止まると、右腕を持ち上げ掌を門に向けた。 すると、掌から細かな稲妻をまとった赤い光が放出された。 赤い光は門の前のシールドを一瞬で破壊した。
「何、まずい」俺とユウキは同時に城壁から飛び降りた。
男の次の攻撃で、厚い木製の城門の扉が破壊された。 俺は再度城門前にシールドを張った。 ほぼ同時にユウキは、破られた門の前に土の壁を出現させた。 ギルダも降りてきて、ユウキの造った壁を氷結させた。 壁は岩のように堅くなった。
男は一瞬驚いたようなしぐさを見せたが、ゆっくりと近づいて来た。
「あの男はヤバイぞ。 気をつけろ。 恐らくあの機械はレムの威力を増幅する装置だろう」とユウキ。
「アイツは何者だ? サムライか?」
「俺の予想では、バラス王だ」
「なに!」
男は俺達の20メートル程度まで近づくとようやく止まった。 そして銀色のフェイスマスクを持ち上げた。 中からは40代ぐらいに見える男の顔が出てきた。
「ようやく会えたな。 お前が緑の王か」 男が俺に話しかけてきた。
「そうです、カケル・ツクモです。 貴方はバラス王ですね」
「そうだ。 お前には何度も煮え湯を飲まされている。 だが今回だけはお前の良いようにはさせない」
「あなた方にここは渡さない。 これ以上お互いの損害が大きくなる前に、この辺で終わりにしませんか」
「ここだけは渡せない。 そちらこそ手を引け。 今ならこちらは手を出さないでおいてやる」
「それは出来ません」
「ならば、私自身の手で叩きのめしてやる。 これまでの借りもまとめて返してやる」
(はあ~、やっぱりこうなるのか。 いつもそうだ。 しかも今回は機械でパワーアップしているし。 これって反則じゃないか?)
「分かりました。 だが、私が勝ったら兵を退いてください」
「私に勝とうなど、100年早いわ」