3-21 戦いを終えて
村人達は一斉に歓声を上げた。 俺は俺をかばって斬られた村人のところへ駆け寄ったが、すでに死に絶えていた。 俺に砥石の使い方を教えてくれた気さくなおじさんだった。 急に力が抜けてきて、その場に座り込んでしまい、動けなくなってしまった。 ジュリアンがそばまで来ると俺に言った。
「良く頑張ったな。 だがまだ終わりじゃないぞ」 俺はハッとして立ち上がった。
「ありがとうございます」 そう言うとみんなを集めた。
「ホーリーさん、申し訳ないが奴らの退却が本当か偵察に出てもらえますか」
「分かった」 と言うと闇に消えて行った。 俺は他の人達にも指示を与えた。
両方の橋の所に見張りを立て、他の人達には固まって休息を取ってもらった。 クロームにはけが人の治療をしてもらった。 村の女性達は夜が明けるまで様子を見た上で迎えにいくことにした。
明け方近く、ホーリーが戻ってきた。 報告によると20キロ以内には敵はいないとのことだった。 敵は本当に撤退したようだ。 俺はみんなに勝利を宣言した。 村人に女性達を迎えに行ってもらった。 残った人達には、戦闘があった場所を確認してもらった。
2時間ほどして、女性や子ども達が戻って来た。 あちこちで喜びの明るい声が聞こえた。 だが泣き声が聞こえたところもあった。 報告では敵の死体が28体あったとのことだった。 こちらは村人3人が死亡、けが人は10人ほどだったが重傷者はいなかった。 俺は村長を見つけ、結果を報告するとともに死亡者が出たことを謝罪した。
「いやいや、亡くなった者にはこんな言い方をしたら申し訳ないが、この程度の被害で済んだことはありがたいくらいだ。 あなた方のおかげです、あなた方がいなければ、あの子ども達の笑顔はなかったかもしれない」 村長は走り回っている子ども達の方を向いて言った。
「そう言っていただけると、助かります」 そうは言ったものの、俺の心は晴れなかった。 そこへジュリアンたちが上代と一緒にやってきた。
「どうしたしけた顔して、首領を含めて3人も倒したんだろう、上出来じゃないか。 さすがあたしの弟子だ。 これで下僕じゃなくて、レギオンの兵士くらいにはなれるかもな。 これはご褒美だ」 そう言うと、エレインは俺の頭を抱え込み、俺の顔は豊満な胸に埋もれた。
(く、苦しいけどうれしい・・・) 少し汗の匂いが感じられたが、全然いやではなかった。 そばにいたホーリーが慌てて言った。
「こらこら、それはダメだ」 そう言われて、ようやくエレインは俺の頭を放した。
「ごめんなさい、ホーリー姉。 でも取ったりしないから、安心して」
「そんなんじゃない!」
「ホーリー姉がしてあげたくても無理だから、あたしがしてあげただけだよ」 そう言いながらホーリーの申し訳なさそうな胸を見つめた。 ホーリーはナイフを抜くとエレインに向って言った。
「コ・ロ・ス・・」
「冗談、冗談、ゴメン!」 ジュリアンは二人のじゃれている様子を眺めて声をあげて笑っていた。
「エレインさん、僕には・・・」 上代が言った。
「あん、ユウキはなしだ。 こいつは足がすくんで動けなかったし、手なんかこんなに震えてまともに戦えなかったんだから」
「エレインさん、それは言わない約束でしょう」
「まあ、そんなに責めるな、初めての実戦なんてそんなものだ。 エレインの時なんか、敵は倒したが緊張しすぎてお漏らししていたからな」
「えっ、そうなんですか」 俺と上代は同時にエレインさんの顔を見た。
「ちょっ、ジュリ姉それは言わない約束・・・」 エレインは慌ててジュリアンの口を押さえた。
「嘘、嘘だからね、あたしはそんなことしていない。 あれは汗だから・・・」
みんな、俺を元気づけようとしているのだと思った。 そんなみんなの気持ちが、ありがたかった。
「とにかくカケルは良くやった。 味方に損害が出るのはやむを得ないことだ。 最悪こちらがほとんど全滅に近い事態もあり得たのだから」 ジュリアンはホーリーがカケルの頭をなでるのを見ながら思った。
(今回の結果はできすぎと言ってもいい。 私の当初の見込みでは、こちらの死者が半数以下なら良しとしていたのだから。 アンドレアス様もこの結果には驚いていたし、喜んでいるようだった)




