33-4 密約
銀のレーギア
バラス王は怒り狂っていた。 シーウエイが王の執務室に入ると、大理石でできた獅子のペーパーウエイトが、シーウエイの顔に飛んで来た。 ペーパーウエイトは、シーウエイが頭を左に傾けて避けると、ドアにぶつかって床に落ちて砕けた。
「シーウエイ、これはどう言う事だ。 私は緑と黄の王にコケにされたということか?」 バラス王は興奮しながら言った。 机の上の書類が床に散乱していた。
「申し訳ございません。 私にもこのような展開は読めませんでした。 詳しい経緯については、現在調査中です」
「経緯などどうでも良いわ! 結果が全てだ。 事実は白と水晶と黄が緑の王に降ったということだけだ。 なぜいつもあの小僧なのだ?」
「・・・・・・」 シーウエイは返答出来なかった。 何を言っても怒りを買うのが分かっているからだ。
「黄だけは看過できない。 すぐに攻める準備をせよ。 それから、前に言っていた紫と手を結ぶ。 密かに使いをだせ」
「バラス様、本気ですか?」
「本気だ、もうなり振りかまってはいられない。 だがそのことは絶対に表にだすな。 表向きにはなしだ。 それは恐らく向こうも一緒だろう」
「内容はいかがいたしますか」
「一つ、我々は紫のレギオンに対して敵対行動をとらない。 二つ、共通の敵である緑のレギオン及びその一派の勢力を削ぐために、紫の王の軍事行動に間接的な支援行動を行なう。 こんなところで良いだろう」
「承知いたしました」
「良いか、我らには敵対しないといいながら、これだけの事をしてコケにされたのだから、絶対に後悔させてやる。 今回だけは負ける事は許さんぞ」
「はい」
紫の王都へ向けて、飛空船で使者が密かに送られた。
10日後、銀のレーギア
「バラス様、使者が戻って参りました」 シーウエイが男と一緒に執務室に入って来た。 使者の男は王に対して一礼した後、早速報告を始めた。
「飛空船は王都ラーベリアまでの飛行は許されず、王都までの30キロほど手前からは向こうの馬車でした。 王都では王に謁見は許されず、親書を宰相のお立場のカウレイ殿にお渡しいたしました。 そしてその日の夕方までにはカウレイ殿が戻られ、王のお言葉をお伝えになりました。 その口上はこうです。 『バラス王のお心遣いに感謝申し上げる。 緑とその一派の行動には憂慮しているのは私も同じです。 バラス王の申し出は承知いたしました。 ただしお互いに立場もおありでしょうから、返書もいたしませんが、王としてお約束いたします』とのことでした」
「分かった。 文書など気休めにしかならない、それでいい。 ご苦労だった」 バラスがそう言うと、男は下がって部屋を出ていった。
「良し。 シーウエイ、作戦の方はどうなっている」
「計画はほぼ出来上がっていますが、今回は複数展開する大がかりな侵攻となります。 そのため準備や調整にもう少し時間がかかります」
「分かった。 急げ、冬が来る前に開始する必要があるだろう?」
「承知いたしました」




