32-2 ターニャの救出(1)
俺はすぐに対応策を協議した。 メンバーはセシウス、トウリン、ユウキ、そして丁度報告のために帰ったスウゲンだった。 俺は状況を簡潔に説明した。
「さすがに私もその展開は読めませんでしたね。 私の銀の訪問も無駄になるかも知れませんね」とスウゲンは驚きながらも言った。
「えっ、どう言う事ですか?」と俺は聞いた。
「いえ、それは後々。 それよりも今は対応策を決めなければなりません」
5人で協議中の様子をヒョウマとクレオンは側で見ていた。 必要な情報を即座に提供できるようにするためだった。
「セシウスさん、すぐに援軍として出兵できるのはどれ位ですか」とユウキ。
「2万というところだな」とセシウス。
「では、すぐに出兵の準備をお願いします」とスウゲン。 セシウスは俺の顔を見た。 俺は頷いた。
「分かった。 トウリンすぐ準備を」
「はい」 トウリンはそう言うと出ていった。
「ヒョウマ殿、水晶の軍の位置と金の軍勢の現在の予想進軍地点を教えてください」とスウゲン。
「たしか、水晶の軍はヤール草原のこの辺りに布陣しているはずだ。 金の軍勢はおそらくこの辺りまで来ているだろう」 ヒョウマは地図を指さした。
「それだと交戦まで3日というところか」とセシウス。
「すぐ兵を退いてください。 ターニャ王が拉致されたと兵に知れれば、動揺して崩れ出すでしょう。 王が救出されるまで王都での籠城戦に切り替えるべきです。 そうすれば我々や黄の援軍の到着までの時間も稼げます」とユウキ。
「分かった」とヒョウマ。
「しかし、それでも今からでは緑の援軍は間に合わないのではないでしょうか」とクレオン。
「それについては考えがあります」 スウゲンはそう言うと策を話した。
「なるほど」とヒョウマ。
「そしてその間に、ターニャ王の救出をしなければいけないのですが、これは少人数で速やかに忍び込み、電撃的に奪還しなければなりません。 したがってメンバーは必然的に決まって来ます。 カケル様と警護班、それとレギオンの特殊部隊から50名程度、それにヒョウマ殿です」 今度はユウキが作戦の概要を説明した。
「うん、それは良い」とヒョウマ。 クレオンは複雑な気持ちでやりとりを見ていた。
(これがこのレギオンの強さの秘密か。 二人の有能な頭脳とその計画をやり遂げられる力。 そしてお互いの信頼を醸成しまとめ上げる力、これがこの王のすごさなのだろう。 私がいたときは、確かに兵は精強だった。 しかし兵数は少なく最弱と呼ばれていた。 確実にこのレギオンは進化している) クレオンはうらやましさと同時に、自分の力不足を思い知った。
「では、各自そのように進めてくれ。 準備が整ったところから行動を開始してくれ」 俺は細部を詰めた後、そう命じた。
「かしこまりました」セシウス達が応えた。
「すっかり王様らしいじゃないか」とヒョウマ。
「そうならなければ生き残れなかったのですよ」と俺は言った。
それからは実に慌ただしかった。 軍だけではなく、スペンスやマリウスなど内務の者達も、急な出兵の命令を受けてその準備に奔走していた。
俺は必要なところへの指示を済ますと、ヒョウマと白のレーギアの説明を聞いていた。
「決行はいつだ」とヒョウマ。
「明日の夜にしよう」
「分かった」それから少し間が空いてから言った。
「ありがとう。 感謝する」
「礼は無事救出が成功してからにしてくれ。 私にも大事な人がいるから、気持ちは分かるつもりだ」