31-8 ヒョウマとの対決(3)
戦いは30分近く続いた。 闘技場はぼろぼろだった。
「セシウス殿、カケル様はどうなのでしょう」とファウラは心配そうに聞いた。
「互角の戦いのように見えるかも知れませんが、そうではありません。 カケル様はまだ本気で戦っておりません。 大丈夫ですよ」
「それは相手もだがな」とバウロ。
俺は戦い前にユウキが言った言葉を思い出した。
「いいか、勝つなら完璧に勝て。 相手が負けを認めないような勝ち方だと、あとで必ず問題が起こるぞ」
(いつも好き勝手言いやがる。 そんなに簡単にはいかないんだよ) そう思いながら、どうしたものか考えていた。
ヒョウマも苛立っていた。 放つ攻撃を大部分無効化され、有効打を与えることができなかったからだ。
「あの呪文を何とかしないと。 そうか・・・」ヒョウマは、何かを企むように笑うと俺に向き合った。
「しゃべるな!」 ヒョウマは俺を睨むと、そう言った。
次の瞬間、俺は体に違和感を覚えた。
(何だ、声が出ない。 息は出来るが言葉を発することができない。 催眠術?
精神操作?) そんな事を考えていると、ヒョウマが攻撃を再開した。
(クソッ、これを全部捌くのは容易じゃ無いぞ) 俺は必死に念弾や火球を避けたり、シールドで防いでいたが、明らかに押されていた。
俺の体は傷だらけで、服も焼け焦げやほころびでぼろぼろになっていた。
(これは冗談じゃ無く、ヤバイな。 どうする) そう思った時、横から声が聞こえてきた。
「カケル様、グレアム様がお亡くなりになられた時のことを思い出して!」 それはホーリーの声だった。 普段あまりしゃべらない、話しても小さな声でしか話さないホーリーが大声を絞り出していた。 俺の脳裏に死ぬ間際のグレアムの顔が浮かんだ。
(『カケル様、良き大陸の王におなりください』グレアムはそう言いたかったのだと思う。 それがどうした、このざまは。 これじゃあ、グレアムにあきれられてしまう) そう想ったら何故か笑えてきた。 それと同時にゲブラと戦った時の感覚を思い出した。
(そうだあの時の感覚だ。 ありがとう、ホーリー) 俺はホーリーの方を見た。 ホーリーは無言で頷いた。
俺は一つ深呼吸をすると、感覚を集中させた。 レムが体中を熱く駆け巡る感覚がした。 すると周りの空気が一変した。 俺の周りに風が吹き始めた。
「どうやらうちの大将、ようやく目覚めたようだな」とセシウス。
「そうだな、これからが見物だ」とバウロ。 ヒョウマも異変に気付いたのか、攻撃のテンポを更に上げた。
「うおーーーーっ!」 俺はヒョウマの声の呪縛を断ち切るように、声を上げた。 それと同時に俺の体の周りの空気を爆発させた。 周りに土埃が舞い上がった次の瞬間、俺はヒョウマの眼前にいた。 そして驚くヒョウマの顔をぶちのめした。 ヒョウマは瞬間的にレムで強化したが、そのまま30メートルほど後ろの観客席の壁まで吹き飛んだ。 ヒョウマはよろめきながらも体勢を立て直そうとした時には、すでに俺はそこにいた。
「クッ、うっとおしいんだよ」ヒョウマはそう言うと、念弾を撃とうと手を伸ばした。 俺はその手をつかむと一本背負いで投げた。 ヒョウマの背中が打ち付けられた地面は、土が吹き飛んだ。 ヒョウマはゆっくりと立ち上がると、血を吐いた。 そして一旦俺から距離を取ろうとしたが俺は逃がさなかった。 顔と腹に続けざまに拳を打ち込んだ。 ヒョウマも反撃の拳を繰り出すが、俺には当たらなかった。 その後の戦いは一変した。 ヒョウマはサンドバッグ状態だった。 もちろんヒョウマもレムで体を保護していたが、それでも俺の連続攻撃についには耐えられなくなり、崩れ落ちた。
「お前の負けだ」 俺は仰向けに倒れたヒョウマに言った。
「ま、まだだ・・・、オレは・・負ける訳には・・・いかない・・」 そう言いながら手を伸ばしたが、ついに意識を失った。
「ヒョウマ様!」クレオンが飛び込んで来て駆け寄った。
「ファウラ、ヒョウマを治療してやってくれ」
「かしこまりました」