31-4 舌戦(2)
「まあ、カケル王の意向は分かりました。 しかしこちらとしても『はい、分かりました』とは言えません。 少なくともスフィン王の違約金6億クロンの支払いと黒のレギオンとの同盟は解消した上でないと、話しになりませんね」
「何を仰いますか。 銀のレギオンは今や大陸一の軍事力、技術力をお持ちです。 そして大陸の三分の一の富が集まっているといわれております。 そのような大国が、貧乏小国の違約金に目くじらを立てるなど、世間の笑い者になりましょう。 アテン島が滅亡せずに存続できた事への祝儀とすることこそ、大国の王として賞賛されることでしょう。 また、黒との同盟ですが、王と王が信義をかけて結んだものです。 それを安易に一方的に解消しては、信用にあたわざる者として世間から評価されるでしょう。 バラス王はそのような者と安心して同盟を結べるのでしょうか」
「ぐっ、ああ言えばこう言う。 口の達者なやつだ」とバラス王は苦々しく言った。 シーウエイは笑いそうになるのをこらえていた。
「まあ、そちらの言い分は分かりました。 ですが、今何故我らと同盟を結ぶ気になったのですか」とシーウエイ。
「これはまた異な事を申される。 シーウエイ殿にはこの大陸の現状をどう認識されておられるのでしょうか?」
「おや、それはこちらがお伺いしたい。 カケル王は現状をどのように認識されておられるのでしょうか?」
「よろしいでしょう。 カケル王は大陸各地で起こっている戦乱を憂慮しておられます。 カケル王は、12王の存在意義はこの大陸の平和と安定に寄与することだとお考えです。 しかしながら現状は逆です。 初代の12王達が盟約を交わし千年続いた平和が崩壊し、12王どうしが戦いに明け暮れております。 特に紫の王は金を攻め落とし、橙を傘下に収め白を占領中です。 さらに水晶も狙っているでしょう。 我々もつい先日、橙と戦いました。 紫の王の狙いはこの大陸の征服でしょう」
「それが我らとの同盟とどう関係あるのでしょう」
「現在、この大陸の12王の中で最も力をお持ちなのは、バラス王です。 初代の王達の中で、水晶の王は盟主として12王の盟約をまとめ、平和をもたらしました。 今、それができるのはバラス王だけだとカケル王はお考えです。 カケル王は、もしバラス王がこの大陸に平和をもたらすために尽力されるのならば、バラス王に協力したいとお考えです。 バラス王はいかがお考えでしょうか」
「うむ、余も紫の行動には苦々しく思っている」とバラス王。
「おお、ではバラス王はカケル王とお考えは一緒と言うことですね」とスウゲンは大きな声で言った。
「もう結構です。 あなた方の思惑には載せられません」とシーウエイ。
「どう言うことでしょう」
「あなた方は紫と我々を敵対させようとしている。 そして紫と銀が潰し合うことを望んでいる」
「それは穿った見方ですね。 我々は純粋に紫の侵略行為に憂慮しているだけです。 そしてこのまま侵攻が続けば我々も抵抗しきれなくなります。 そして我々が敗れれば、紫と銀のパワーバランスも一気に逆転してしまうでしょう」
「今度は我々の危機感を煽る訳ですか。 我々とてあなたが仰るような力が有るわけではありません。 我々も自分の人民達をまもることで精一杯なのです。 我々を煽って紫に対抗させようとしてもムダですよ」
「これは異なことを仰る。 現状、一番の戦力をお持ちなのはバラス王です。 それは誰もが知っていることです。 そして最も力の有る王が他の王を正しく導き、大陸に平和をもたらす事は使命だと考えます。 残念ながら紫の王はその反対に動いております。 これを止めることができるのはバラス王だけです」
バラス王はそんな世辞には乗らないというように「フン」と笑ったが、まんざらでもなさそうだった。
「我々はそうは考えておりません。 カケル王は自分達を大分過小評価しておられるようですが、カケル王はいまだ無敗を誇っているではないですか。 我らからすれば、緑のレギオンは密林に潜む虎に見えます。 うかつに近づけば、大怪我をするでしょう」