31-2 カケルの選択
緑のレーギア、会議室
この会議からスペンスが加わった。 さすがに王代理までは頼めなかったので、それはセシウスに任せることにした。 セシウスはずいぶんと抵抗したが、俺は有無を言わせなかった。
「私は決めた。 王として緑をはじめとしたレギオンの人々や、私の周りの大事な人々を守るためには躊躇しない」 俺は宣言した。
「カケル様、具体的にはどのようなことでしょう」とセシウス。
「橙や金など紫の勢力とは相容れない事が分かった。 徹底的に戦う事になるだろう。 それで、まずは以前スウゲンが言っていた、銀との同盟を進めようと思う。 それと、今後の予想される危機の対応策について、あらゆる選択肢を否定しない」
「では、銀への使者としては、私が参りましょう」とスウゲン。
「いや、ユウキの時のこともあるので、スウゲンはまずい。 捕らえられるかも知れないではないか」と俺。
「いいえ、正式な使者を捕らえてしまっては、王としての面目を失います。 帰り道を襲うということはあるかも知れませんが」とユウキ。
「とにかく、私に行かせてください」とスウゲン。
「分かった。 だがとにかく用心してくれ。 それとエルビン族に対する違約金の支払いと、黒との同盟の解消は認められない」
「承知いたしました」
「それから、アンドレアスのレッドローズには今後も継続的に支援する。 いずれ金とは戦うことになると思う。 その時に何らかの形で生きてくると考える」
セシウスをはじめ一同は驚いた顔をしていた。
「先日、アストリア王国の王子の使者と申す者が来ておりましたが、いかがいたしますか」とスペンス。
「そちらは、我らに兵を出して王都の奪還に手を貸して欲しいとのことだったが、どうも気のりがしない。 人の力だけをあてにしているようにしか思えなかった。 丁重に断ってくれ」
「承知いたしました」
会議の終了後、王の居室
「皆、驚いていたぞ。 人が変わったようだと」とソファーに座るなりユウキが言った。
「今までの俺は、考えが甘かった。 守る戦いはやむを得ないが、こちらから攻める戦いは、自分が非道な侵略者になったようで抵抗があった。 だが守りであろうと攻めであろうと、どう言い訳しても戦いであることに変わりは無い。 それによって敵も味方も多くの人が死ぬのだ。 ならば俺は王として味方や住んでいる人々の被害が一番少なくなる手段を選択しなければならないのだ。 俺が選択に躊躇することによって、死ななくて良かった人間を死なせてしまうことは避けたい」
「急に10歳も老けたような言い方だな。 だが、間違っていないと思う」
「だけど、これが正しいのかも、本当は迷っている。 ただきれい事だけでは済まないのだとも思っている」
「王に限らず上に立つ者は、どのような選択をしても非難されるものだ。 俺が、お前がより良い選択ができるように支えるよ」
「そう言ってくれると少しは気が楽になる。 よろしく頼む」
翌日、エレインが下のフロアに現れた。
「あれ、もう出歩いて大丈夫なのかい。 治療院から逃げ出して来たのじゃないだろうな」とアドル。
「人聞きの悪いこと言わないでよ。 ちゃんと許可をもらっています。 もうほぼ傷は塞がったので、無理をしない程度に動いてかまわないと言われたので、出てきました。 当分、護衛にはつけないけど、ジュリ姉のお手伝いぐらいはできるかなと思っています」
「それは良かった。 エレインがいなくてレオンが寂しそうだったぞ」とアビエル。 その隣でハルが黙って何度も頷いた。
「えっ!」 エレインは驚いて思わず顔が赤くなった。
「な、何を言い出すんだ。 俺はバカを言い合えるリースがいなくなったから、それで寂しそうに見えたんだろう」とレオンは慌てて言い訳をした。
「あらそう? エレインが斬魔衆にやられた時に、『エレイン、死ぬな!』て涙流していたのは誰だったかしら」とアビエル。
「えっ、そうなの?」とジュリアン。 レオンもエレインも顔が真っ赤だった。
「まあまあ、そんなにからかっちゃかわいそうですよ。 二人の今後については、皆で生暖かく見守っていきましょう」とエルク。
「何よそれ」とエレイン。 やはり彼女がいるかいないかで雰囲気が全然ちがった。




