30-8 カケルの危機(2)
中央の塔、王の居室の下の階
階段から足音を忍ばせ、3人の黒装束が上ってきた。 一人がフロアの様子を伺いながら顔を出した。 その時、その賊に向ってナイフが飛んで来た。 賊は慌てる様子もなくかわすと、床を転がりながら侵入してきた。 後ろから2人が続いた。 ナイフを投げたのはホーリーだった。 ホーリーの側には、アドル、エルク、ハルが立っていた。
「気をつけて!」とホーリー。 黒装束の者たちは何れも異形の者たちだった。
「ここは通さないぞ」とアドル。
ジュリアンが賊の侵入を伝えようと上に上がってきた時に、北側の窓ガラスが割れ、3人の黒装束が入って来た。 一人は大男、一人は女だった。
「何者だ?」俺は聞いた。
「やあ、不躾な入り方をして申し訳ない。 私は紫のレギオンのサムライにして金の王、ゲブラ・ゾールと言います。 貴方がカケル王ですね」
「同じく紫のサムライ、グレイガ・バウン」
「同じくソアラ・グーン」
「私の命を取りに来たのか?」
「いいえ、それは貴方の返答次第です」
俺はどうすべきか考えながら、周りを目で確認した。
「おっと、変な事は考えない方がいいぜ」 グレイガが素早く動くと、グレアムを捕らえ首筋に剣を近づけた。
「卑怯な」とグレアム。
「まあ、そう興奮せずに話しましょう。 貴方が降伏して従属を誓えば、すべて円満に解決します」とゲブラは事もなげに言った。
「そんな事できるわけない」 俺は即答した。 その時、下の階からアドル達が上ってきた。 ゲブラはそれで下から侵入を試みた者達が殺られたことを悟った。
「やはり、そうですか。 残念です。 ではしょうがないですね。 お互いここでは狭すぎるでしょうから表に出ましょうか」 ゲブラ達は後ろ向きのまま窓から飛び出した。 グレアムはそのままグレイガに抱えられて連れて行かれた。
「クソッ、追うぞ」 俺は駆け出し、窓から飛び出した。 アドル、エルクも遅れまいと続いた。
俺がレーギアの北側の庭に飛び降りると、そこに3人はいた。 空中にはレムの灯りが浮かんでいた。 そしてその周りに怪しい影が潜んでいるのが感じられた。 俺に続いてアドル、エルク、そして少し遅れてアビエルがやって来た。
「カケル様、気をつけてください。 奴ら“斬魔衆”と呼ばれるアデル族の暗殺集団を連れてきています。 リースとエレインがやられました」とアビエル。
「何だって!」 俺はアビエルの顔を見た。
「エレインはファウラが診ているので大丈夫だと思いますが、リースは死にました」
「おまえら」 俺はゲブラを睨んだ。
「さて、やろうか」 ゲブラは左手を突き出した。 すると突然、俺の体に何かがのしかかって来るような重さを感じた。
(何だ、これは) 俺の上には何も無かった。 しかし明らかに象にでも踏みつけられているかのようだった。 俺はたまらず膝をついた。
(これがこいつのレムか? 重力を操れるのか?) 俺は必死にこらえた。
「ムダ、ムダ。 その力からは逃れられないぞ」 ゲブラは笑いながら近づいて来た。
「オフセット」 俺がそう唱えると、のしかかっていたものが嘘のように消え失せた。
「何!」 ゲブラは驚いた。 ゲブラはもう一度手を伸ばした。
「オフセット。 何度やってもムダだ、俺には効かない」
「ほう、あんたはレムを無効化できるのか。 これは予想外だったな。 では手を変えるか。 オイ」 ゲブラはグレイガの方を向いた。 グレイガは頷いた。 あらためてグレアムに剣を突きつけた。




