3-18 シュルメ村の攻防(3)
ジュリアンたちが攻撃を開始したのと同じ頃、エレインたちのところでも動きがあった。 エレインたちは、南の道にかかる橋の西側、道の南側の斜面と反対側の草むらに2手に別れて潜んでいた。 馬の足を止めるため、橋を渡ったところに上代が地割れを作っていた。 薄暗がりの中、騎馬の集団が橋を渡ってくるのが見えた。
「来るぞ、いいな打ち合わせたとおり3人で一人にかかるんだぞ」 エレインは、村人たちの方へ向くと念をおした。
「ユウキはあたしの側を離れるな。 お前がやられたら、ある意味向こうの勝ちだ」
ユウキを見ると、剣を握った手が震えているのが分かった。
(無理もない、ユウキにとってこれが初陣だ。 体が震え、体がこわばって思うように動けなくなる。 他の村人たちも同様だろう。 初陣で命を落とす兵士の確立は高い)
橋を渡った先頭の馬が地面の異常に気づき、地割れの手前で止まろうとした。 しかしすぐ後ろから続く馬たちに押されるようにして、前足を踏み外した。 馬は悲鳴をあげるようにいななくと、割れ目に前のめりに落ちていった。 乗っていた男は、前方に飛ばされていったが、顔面を割れ目の地面にたたきつけ、首の骨を折って即死だった。
「罠だ、落とし穴があるぞ。 敵がいるぞ」 後ろに続いていた男が叫んだ。
「馬をおりろ、このままでは身動きがとれない。 矢を射かけられるかもしれんぞ」別の男がさけんだ。 男たちは馬を下りると、剣を抜いて地割れの方へ用心しながら進んできた。 地割れに注意しながら回り込んできた。 3人ほどが、村人たちが待ち伏せている所まで来た時に、エレインは飛び出すと先頭の男の剣を持つ右手を一刀のもとに切り落とすと、そのまま体を男の右横にすり抜け、すぐ後ろの男の驚きの顔を見上げながら下から逆袈裟に切り上げた。 そのまま体を回転させながら男の後ろに回り込みそのまま3人目の男に斬りつけた。 しかしその斬撃は男に受け止められ後ろにはじき帰された。 ここまでが一連の流れで行われ、一瞬の出来事に敵も味方もあっけとられていた。 すぐに村人たちは我に返り、5、6人が道に飛び出すと倒れている敵に対してとどめを入れた。 村人たちはすでに動かなくなっている敵に対して、まだ攻撃を続けていた。
エレインは、体のがっしりした男と向き合いながら、どうするか考えていた。
(クソッ、出来れば初撃で5人ぐらい倒しておきたかった。 村人も半数は固まって動けずにいるし、半数は異常な興奮状態になって冷静な動きができずにいる。 このままこの暗がりで乱戦になったら、奴らの狩り場になってしまうぞ) エレインはユウキの位置を確認した。 右斜め後ろに剣を構えてついていた。 前からは続々と敵の男たちが続いて現れた。
(ジュリ姉とホーリー姉が一緒だったら、これくらいの敵どうってことないのだが・・・・)
「来るぞ、3人でかかれ」と言うと、エレインは目の前の男に斬りかかった。 男はなかなかの使い手で、素早いエレインの連続攻撃を受け流していた。 他の男たちは左右に散らばり、村人たちに襲いかかろうとしていた。 その時橋の方から男の悲鳴が聞こえた。
「後ろだ、後ろからも敵襲だ」 その声に男の動きが一瞬止まった。 エレインはその隙を見逃さなかった。 相手がかわす間もなく気づいた時には、エレインは男の懐に入っていて、剣は男の腹に深々と突き刺さっていた。 エレインは男の腹に足をかけると、思いっきり蹴ってその反動で剣を抜くと、左に回転しながら回り込み、男の左にいた敵の背中に斬りつけた。 斬りつけられた男は、槍を持った村人に戦斧で襲いかかろうとしていたが、一瞬固まった。 その時村人の槍が男の胸に突き刺さった。
ユウキは、エレインの動きについて行けず、遅れがちになった。 そんなオタオタしているユウキに敵の男が、剣で斬りかかってきた。 ユウキはなんとか敵の剣を受け流したが、体が思うように動かず、反撃出来なかった。 そこへエレインがとって返して、男の背中から剣を突き刺した。
「ボーッとしているんじゃない!」エレインがユウキに言った。
エレインが先頭の男たちに攻撃を仕掛けたころ、ホーリーは橋の上を馬の間をすり抜け、敵の背後に迫った。 音も無く最後尾の男に迫ると背後から剣で、背中に斬りつけた。 男は大きな悲鳴を上げると、その場に倒れ込んだ。 ホーリーは振り返ると馬の尻を剣の平でたたき、馬たちを橋の東側へ逃がした。
「後ろにも敵がいるぞ」 男たちが叫ぶと、ホーリーの方へ三人の男が向って来た。 ホーリーは馬を追って、橋の東に逃げた。
(敵を分散させなければ、エレインの負担を軽くしなければ・・・) ホーリーが橋の出口付近に来た時に、前に数人の人影が見えた。
(チッ、北側から回ってきた敵か? 違う、あれはジュリ姉だ。 いいタイミングだ) ホーリーは、ジャンプすると橋の欄干に飛び乗り、敵に向き直り腕を組んだ。
(あとは任せた、ジュリ姉)
ジュリアンと村人たちは、橋の入り口のところで一列に並び弓をかまえた。 3人の男たちが橋の半ばを過ぎたころ、ジュリアンたちに気がついたが、逃げ場は無かった。
「放て」 ジュリアンの号令のもとに、7本の矢が一斉に放たれ、3人ののどや胸、腹に突き刺さり、崩れ落ちた。 それを見届けたホーリーは、ジュリアンに念話で話しかけた。
「ジュリ姉、ここは任せていい? 私はカケルの方が気になる。 先に行くね」
「分かったわ、私たちが行くまで持ちこたえて」
ホーリーは橋の欄干を、平地を走るかのように軽やかに西に走り、橋から北側の土手に飛び降りると、土手沿いに北の橋の方へ走った。
 




