28-19 激戦(4)
俺とムギンは難民達から離れた、戦場との間の荒れ地に降り立った。 グレンは俺達から少し離れた場所で成り行きを見守った。
「クックックッ、形勢を逆転できるこんな好機が来るとは思わなかった。 のこのこ出てきたことを後悔してももう遅いぞ」とムギン。
「こんな戦いをして何の意味がある。 今黙って兵を退くならばこれ以上の攻撃はしない」
「私にとっては意味があるのだ。 寝言はもう聞かんぞ」 そう言うと身構えた。 剣を使う気ではないらしい。
(最初からレムの撃ち合いか)
ムギンは左手を前に出し掌を上に向けた。 各指を上に動かすと、俺の周りに三角錘状に地面が盛り上がった。 そしてすかさず右手から巨大な火球を放った。 俺は三角錐が邪魔をして逃げられなかったため、とっさに前面にシールドを張った。 火球はシールドを直撃し、シールドを粉々に砕いた。 火球と言うより溶岩の塊と言う方が正しいと思った。 幸いシールドが威力を殺してくれたので、直接の被害は避けられた。
(なんだこの威力は・・・。 レムの力が半端ないな、レベルいくつなんだよ) 俺は慌てながら、三角錐の隙間からようやく外に逃れた。 その時、あることを思い出した。
(試してみるか)
ムギンはまた左手の指を動かした。 すると俺の左右と後ろに20メートルほどの土の壁が現れた。 どうしても俺を逃がさないつもりらしい。 ムギンはまた火球を撃ってきた。
「オフセット」 俺は呪文を唱えた。 すると巨大な火球は俺の直前で突然消滅した。 それと同時に俺の周りにそびえ立っていた壁が消え失せた。
「何!」 ムギンは驚いて、何が起こったのか理解出来ずにいた。
「何をやった」 ムギンは訝しんだが、再び火球を撃った。 しかも連続で撃ってきたのだった。
「オフセット」 また火球は幻のように消失した。
「お前が消したのか? ならばこれはどうだ」 そう言うと今度は雷撃を撃とうとした。
「オフセット」 撃ってくると察知した俺は言った。 何も起こらなかった。
「クソッ」 ムギンはまた指を動かすと、空中に無数の金属の槍状の物が俺を取り囲むように現れた。
「オフセット」 槍が一斉に俺に向い始めたところで突然消滅した。 さすがにムギンは理解した。
「お前はレムを無効化できるというのか? どこでそんな術を覚えた。 そんな術は聞いたことがないぞ」 ムギンは悔しそうに言った。
「どこでもいい。 もうあなたのレムは通用しない。 諦めて兵を退きなさい」
「そうはいかないのだ」
ムギンは大きく深呼吸した。 すると体中の筋肉が盛り上がり、変形しだした。 しばらくするとそこには、金色の毛に包まれた大きな狼がいた。 狼は赤い目で俺を睨み、牙をむいてうなった。
(レムが通用しないから、手をかえたか。 だがある意味これはかえって厄介だな)
今度はこちらが狼に対して火球を撃った。 しかし狼は俺をあざ笑うかのように軽やかにかわした。 俺は左右の掌から続けざまに攻撃したが、ことごとくかわされてしまった。 俺は“青牙”を抜いた。 そして狼に向けて剣をなぎ払った。 青い光が無数に飛び出し、様々な軌道で金狼に襲いかかった。 しかしそれも飛退いてかわしてしまった。
(クソッ、動きが速すぎる)
今度は狼が攻勢に転じた。 俺に対して飛びかかってくるのを剣で斬ろうとするのだが、体を反転させてかわすとすれ違いざまに前足で攻撃してきた。 俺はかろうじてかわしたが爪先が左の上腕をかすめた。 上腕がぱっくり割れ、血が噴き出した。 レムで体を強化してはいたが、ムギンの爪はそれ以上だった。 狼の攻撃はその後も執拗に続き、俺の体は傷だらけになった。