28-14 陸の海戦(1)
両軍は睨み合っていた。 3万の橙の軍勢を前に、スウゲンはセシウスに言った。
「さて、やりますか。 私は海の戦いが専門ですが、陸も海もやることは変わりません。 風を読んで、敵を引き寄せ、自分の戦場で叩く。 それだけです」
「我らは貴殿の策に従う。 存分に使ってくれ」とセシウス。
ゴラムは緑の本陣を2キロほど離れた丘の上から眺めた。
「解せぬな。 左は絶壁だし後ろも石の柱が林立している。 守り易くするためとも言えないこともないが、差し込まれたら逃げ場がなくなるぞ」とゴラム。
「何か罠があるには違いないとは思いますが、何を隠しているのかまでは分かりません」とベッジ。
「取りあえず、慎重にいきましょう。 私の兵でまず攻めてみます」とフーリエ。
「分かった。 兵を進めよ」
フーリエが率いる1万5千が進んでいった。 兵は走ることなく、周りに罠が仕掛けられてないか注意しながら進んだ。 お互いの距離が5百メートルを切ると、セシウスは弓兵達に矢を射かけさせた。 橙の兵達は、盾を持つ者が前列で矢を防ぎながら怯むことなく進んだ。 こんな攻撃は想定内だからである。 想定外だったのはこの後だった。
距離が3百メートルほどになった時、セシウスは撤退の合図をだした。 それを気に緑の兵達1万は東に移動し、石柱の林の東側を通って北に退却していくのだった。
「何だと。 まだ剣も交えぬうちに退却だと。 いくら我らが強いと言っても、そこまで怖じ気づくとは思えない。 これは罠だ」 フーリエは軍を止めようとした。 しかし止まらなかった。 もう少しで手が届きそうな所に敵がいて、背中を見せて逃げて行く。 橙の兵達は追わずにはいられなかった。 一気に走り出した。 罠だと感じたフーリエは、絶壁と石柱群との間に20メートルほどの幅の通路のようになっている部分に気がついた。
(あそこを通れば敵の裏側に出られるのではないのか) そう考えたフーリエは兵の一部をその通路を通るように命じた。 兵達が近づくと、その入り口の前に積んであった草の束が突然燃え上がった。 それは煙と鼻につく匂いを発した。 鼻がきく獣人兵たちは、その匂いを嫌いその通路に入ることを嫌がった。 フーリエは確信した。
(緑の連中はここを通したくないのだ。 自分達が危険になるからだ) フーリエは燃える草の火を消火させ、兵達にそこを通るように命じた。
橙の兵が壁と石柱群の間を進んで行くと、突然上から矢が降り注いだ。 崖の上ではブルカ族が待ち構えていたのだった。 たまらず兵が石柱の間に逃げ込むと、何かが石柱の間を飛んでいた。 それは翼人だった。 石柱群の上ではエルビン族が、逃げてくる獣人兵を、投げやりを構えて待っていたのだ。
入り口辺りでその様子を見ていたフーリエは、唇をかんだ。
(クソッ、こっちが罠だったのか)
「下がれ、下がれ」 必然、フーリエの軍勢は、石柱群の右を通って追うしかなかった。 石柱群の東側は、海に続いておりその幅は5百メートルほどあったが、それも北に行くにつれ次第に狭くなっていた。 フーリエの軍勢は数百メートル先を走る緑の軍勢を追った。 そこは1キロ以上続いた。
フーリエはふと海の方を見ると、海上に10隻の中型船が並んでいるのが見えた。
(あれはどこの船だ? 商船、ではないぞ。 まさか・・) そう思った時、船から号砲が響いた。 船から大砲が撃ち込まれたのだった。 砲弾はフーリエの軍勢の脇の石柱群に当たり、崩壊した岩が獣人兵達に降り注いだ。 岩に押しつぶされる者、飛んで来た岩の破片で怪我をする者が相次ぎ、騒然となった。
(しまった。 こっちが本命か) フーリエは完全に敵の術中にはまった事を悟った。