28-11 異様な開戦
朝靄が次第に薄くなるにつれて、ゾンビの群れのような老人達が生気のない目をして、向ってくるのが見えた。 手には剣を持っている者もいたが、多くは棒を持っている者や何も持たない者達が多かった。 その数2万。 我々の本陣から1キロほど手前で一旦停止した。
「よし、奴らに突撃準備をさせろ。 だがほとんどが武器も持っていないぞ。 なぜ武器を持たせない」とムギンがアンガに聞いた。
「あれで良いのです。 武器を持たせれば、敵も遠慮なく攻撃出来ます。 ですが武器も持たぬ者を攻撃するのには躊躇するはずです。 ためらいがある敵に素手で向って行けば相手を混乱させる事が出来ます。 後はこちらが勢いのままに叩けば良いのです」とチンパンジーのサムライは答えた。
「さあお前達、残された家族とまた一緒に暮らしたかったら、敵を倒せ。 戦いを放棄して逃げ出したら、家族は奴隷として売られるぞ」 指揮官の獣人兵が人々に命じた。
「戦えって言ったって武器も持っていないぞ」 老人の一人が怒鳴った。
「敵の剣を奪え、3人で一度にかかるのだ。 この後に及んで文句を言う者は斬る」
難民達はゆっくりとこちらに向って来た。 先ほどまでと違う点は、目つきが変わっていた。 何かを決意したような目だった。
「良し、ではやるぞ」 俺はユウキにそう言うと、空中に飛び出し右前方の開けた場所に降り立った。 俺はそこに巨大なゲートを開けた。 丸い空間の向こう側はソドンの要塞都市だった。 向こう側には大勢の人々がおり、最前列にアンドレアスの姿が見えた。 俺はアンドレアスに無言で頷いた。
「さあ、行くのだ。 家族が待っているぞ」 アンドレアスが人々に向って叫んだ。 人々はお互いに顔を見合わせながら、恐る恐るゲートをくぐった。 その数2千人。 俺はレベル3になったことによって、一回の最大通過人数が大幅に増えたのだった。
難民兵達は驚いた。 突然目の前に2千人もの人が現れたこともあるが、それよりも目の前に自分の娘や孫が現れたことだった。 両方から、お互いに名前を呼び合っていた。
その機を逃さず、ファウラがレムを使って声を拡声し、難民兵達に呼びかけた。
「皆さん、どうか戦わないでください。 あなた方の家族は安全です。 この通り我々が保護しております。 一緒に暮らせるのです」
「おおー」人々の中から声が上がった。
「どうかそのまま急いで前に進んでください。 後ろの兵士達から離れてください」とファウラ。
「バカな、罠だ。 だまされるな。 逃げれば斬るぞ」 指揮官は慌てて怒鳴った。 しかし難民達は、目の前に本人が現れれば、誰も耳を貸さなかった。 難民達は走り出すと、家族のいる方へ向っていった。
「クソッ、緑の奴らはいつの間に人質を奪ったのだ?」 そう言うと、ムギンはアンガを睨んだ。
「済みません。 想定外でした」とアンガは困惑しながら答えた。
「もう良い、我らだけで攻めろ」
「はっ」
難民兵達の後ろに控えていた橙の本軍が動き出した。 橙は全軍を3つに分けていた。 ザンバの率いる1万、ボアンガの1万、ムギンの1万だった。 ザンバは山際から、ボアンガは左側に回り込むように、ムギンが正面から攻めようとする意図がありありだった。
難民達は緑の本陣を通り過ぎ、戦場から安全な場所まで離れた。 レギオンの兵士達が、他の家族の無事を伝え戦争の後で、無事に会える事を説明した。 家族と会えた者達は、抱き合って喜んだ。




