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3-16 シュルメ村の攻防(1)

 陽が東に傾き、空が茜色に染まり始めていた。 村の娘、アルネが弟と村に駆け戻り、大人たちを集めておいてくれたので、村人たちの説得には時間がかからなかった。 ただし村人には“紅の狼”の本当の狙いが俺たちであることは伏せておいた。 もしその事実が知れたら、村人たちは俺たちを疫病神と断定し、村から追い出そうとしただろう、そしてそれによって村の襲撃は回避されると信じるであろうからだった。 上代はアルネたちに分かりやすく、俺たちが出て行っても村が襲われる事は避けられないと説明し、彼女は理解した。 村長をはじめ主だった村人による会議が始まっている間に、俺たちは村長の家の一室で作戦会議をおこなっていた。


 「作戦はこうだ」 上代は、自分で書いたこの村周辺の地図をテーブルの上に広げると、みんなを集めた。 俺の後ろではドラゴンのグレンが横たわって寝ていた。 「この村は北西側と南西側が山脈に続く山で挟まれている。 村の東には南北に川が流れている。 この川は、流れは速くないがかなり深いところもあり、馬では渡れないとのことだ。 奴らが村に入れる道は2つ、僕たちが下りてきた道にまっすぐ続いた東に抜ける道で、村のど真ん中を通っている。 もう1つは村の西の入り口手前を南に村を迂回していく道だ。 奴らは俺たちを取り逃がさないと言うことが絶対条件であるため、間違いなく2手に別れて攻めて来るだろう。 おそらく東からの道からの来るのが本体で、たぶん30名前後だろう。 そして南東からの別働隊が10名前後、そしてこの川の東の土手沿いの南北に各5名弱の警戒の者を置くだろうとみている」 そこまで話したところで、ジュリアンが手をあげて、話はじめた。


 「先ほど、ホーリーから報告があった。 やはり東の方から30数名が騎馬で向っているとのことだ。 おそらく後2時間ぐらいで到着するだろうとのことだ。 それともう一方の道からも15名ほどが向っているとのことだ」

 上代は、自分の読みが的中したことに自信を得て、話しを続けた。


 「そこで、こちらはこの橋の東側に土の壁と地割れを起こし侵入口をふさぐ。 東から来た敵は、川を渡れないとなると一部を残し南下して南の道から攻めようとするだろう。 自ら退路を断った袋のネズミなのだから、確実にもう一方から追い詰めようとするに違いない。 そこでジュリアンさんは、弓の使える村人を連れて、この道の南の沼に潜み、土手沿いに南下してくる敵を仕留めてほしい。 この辺は湿地帯になっていて、馬ではぬかるんで通れないとのことです。 村人の戦える人たちを含め我々は南の道のここで待ち伏せて、各個撃破するという作戦です。 頭がどこにいるかはまだ不明ですが、敵を全滅しなくても、どこかで大将を倒す事が出来れば、おそらくばらばらになり、撤退していくと考えています」


 ジュリアンは黙って聞いていた。

(作戦は全体としては悪くはない。 だがこの作戦は危うい。 敵がユウキの考えるように動いたらという前提の場合である。 しかし戦いというものは、大抵は予想外の事が起きる、もしどこかで、くるいが生じたらこの作戦は瓦解する、そして最悪の場合、全滅する) ジュリアンは何か言うべきか迷っていた。 アンドレアス様からは言われたことだけやれば良いと言われているからだ。


 「おお、さすが上代、いい作戦じゃないか、やはり俺には考えつかない」と言ったが、俺は何か少し違和感があった。

「だけど、ここが気になるんだが・・・。 ここを強行に突破してくることもあるんじゃないか。 もしここを突破されたら村を通り抜けて、後ろから挟み撃ちにされると思うが・・・」俺はふさがれた橋を指さした。

「それはまず無いと思う。 何故なら逃げられるリスクを最小限にするために、ここでもたついている事は避けたいはずだ。 それに仮にここを突破されても、村がもぬけの空になっていたら、一軒、一軒人が隠れていないか探さなければならなくなる、そこで時間が稼げる」

「それは、敵の大将の頭が、おまえと同じレベル、同じように考えた場合だろ? 俺が敵の大将だったら、入り口がふさがれていたら頭にきて、何が何でも通ってやろうと思ってしまうけど。 それに村に入った時に誰もいなかったら、一軒一軒探すなんてことをせずに、村に火をつけて隠れている奴をあぶりだそうとすると思うのだが・・・」

「確かにその可能性はある。 だが、少ない戦力を更に割いてこちらに当てる余裕はない。 そんなことをすればどちらも敵を抑えきれなくなる」


  どうすべきか、俺は迷ったが、少し考えてから言った。

「分かった、俺がここに残ろう。 俺がこの中では一番戦力的に低いし、村人数人を残してもらえば、万一の時の抵抗を試みる」

「何か策はあるのか?」ジュリアンが聞いてきた。

「策と言えるほどではないが、いくつかアイディアはある。 要はやられたらイヤなことをすればいいんだろう」


 (カケルの方が戦い方を分かっている。 理屈ではなく感覚的に作戦の欠点を見抜いてしまった。 これは考え方の違いだろう。 ユウキは合理的に物事を考える、確率的に敵が取り得る戦術を導き出し、それに対する対応策をとる。 一方、カケルは敵の立場になって考えている。 その時その時敵がどう考えるだろうか、どう行動するだろうかと考えるのだ。 そして戦では往々にして激情にかられ、非合理的な行動をおこすものだ。 この者は意外と良い指揮官になるかもしれない、この戦いに生き残れればだが・・・)ジュリアンがそう考えていたとき、カケルの案でいくと決まった。 その後いくつか細かい点が打ち合わせられ会議は終了した。


 その後は慌ただしかった。 集まった村人たちは総勢約120人。 村長や主立った村人に作戦の概要を説明し、納得してもらった。 すぐに女、子ども、老人は北の山にあるという洞窟まで避難してもらうことになり、村長の奥さんをはじめ中心的な女性たちに引率されて約80名が若干の水、食料を持って出ていった。 俺は村長の奥さんに、何があっても村から迎えの者がいくまでは、出てこないように念を押した。 残ったのは39名、戦闘に加わってくれる20代から50代の男たちだ。 弓を使えるもの6人を率いるのはジュリアン、南の道で待ち伏せをかける25名を率いるのはエレイン、それと上代が一緒にいく。 俺と東の橋を守るのは8名の村人とクローム、それとドラゴンのグレンだ。 ホーリーは基本的には、南から来る別動隊の背後を攪乱させることになっているが、ホーリーの判断で状況に応じて自由に行動してもらうことにした。 村人は各自武器に使えそうな物を持って集まった。 狩猟用の弓はもちろん、鎌やナタ、木の棒を削った槍や槌、どこかの戦場で拾ってきたのか、錆びかけた剣や槍も数本あった。 ジュリアンとエレインは集めた村人たちと持ち場に出発しようとしていた。


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