28-5 対橙作戦会議
「橙は今回、2方面からの攻撃を試みようとしています。 西から3万、南から3万です」とトウリンが状況を説明した。
「前回の4倍かあ。 6万ということは18万人以上の兵力に匹敵すると言うことだろう?」と俺。
「そうですね。 こちらも兵力が増えているとはいえ、2方面の作戦を展開せねばならず、戦力の分散は否めません」とトウリン。 そこでユウキが発言した。
「今朝入った情報によると、西からの軍勢には更に2万が加わるとのことです」
「何だと」とセシウス。
「橙はタイロンとアストリアから逃げだし難民となっていた人々を捕らえ、2万人ほど軍勢に加えたそうです」
「そんなの何万人いても戦力にならないだろう」とバウロ。
「“人の盾”作戦か」とスウゲン。
「その通りです。 これには幾つもの目的があります。 一つめは、進軍のルートが決まってしまいますので、難民を先行させ罠や伏兵に備えることです。 二つめは、その難民達は老人や体に障害があるような人々だという話です。 つまり労働力にならない人達の口減らしです。 そして三つめ、実際に戦闘になった場合、我々が戦闘に躊躇する状況にして、士気が下がったところを一気に叩く腹づもりです」とユウキ。
「何ですって、それではその人々は最初から死なせるつもりではないですか。 何て卑劣な」とミーアイ。
「それだけではありません。 どうやらその家族は人質としてまとめて捕らえられているようです。 ですので、戦いを拒否することも逃げ出すことも出来ないでしょう」
俺はそれを聞いて、無性に腹が立ってきた。
「その難民達はなんとか助けられないのか」と俺。
「難しいですね。 こちらが戦わないようにしても彼らは家族のために戦わざるを得ないでしょう。 それに彼らを殺さないようにするためには、罠なども制限されるでしょうし、そうすればこちらの損害も大きくなります。 まことに嫌らしい策ですが、向こうにすればとても有効な策です」とスウゲン。
「これで益々、勝利が困難になったということか」とセシウス。
「どうするのだ?」とバウロ。
「まず、緑の兵3万を二つに分け、南方軍をセシウス殿を総指揮官にして当たっていただきます。 藍とエルビン族、ブルカ族は、それに協力して南からの敵に当たっていただきます。 あとはカケル様が率いて西からの敵に対応してもらいます。 細部の戦術はこれから詰めねばなりませんが、基本はこれで行こうと考えています」とトウリン。
「アドル、今回は同じマブル族同士の戦いになるが、問題無いか?」とセシウス。
「問題ありません。 そんな卑劣な策をとる奴ら、マブル族の面汚しだ」とアドル。
「分かりました。 それで行きましょう。 スウゲン、南部方面の作戦について検討してください。 それからザウロー王には南部方面へ援軍を出してもらおうと考えています。 それも考慮してください」と俺。
「承知いたしました」
会議の終了後、ユウキはアドルに何かを話していた。 アドルは驚いた表情をしたが、その後真剣な面持ちになり頷いた。 ユウキはアドルとの話が終わると、俺のところにやって来て言った。
「今回の難民の情報源がどこか分かるか?」とユウキ。
「ザウフェルじゃないのか」
「アンドレアスさんだ」
「えっ、本当か」
「昨夜、ジュリアンさんに念話で連絡が入った」
「ジュリアンは俺には何も言っていなかったぞ」
「アンドレアスさんが、俺に伝えてくれと言ったそうだ。 俺に伝えれば、敵の意図が分かると考えたのだろう。 それと直接お前に連絡するのは気が引けたのだろう」
「そうか。 だがアンドレアスさんがそれを知っているということは、何か行動を起こそうとしているのではないのかな。 もしかしたら連携して何か出来るんじゃないか」
「そうかも知れない。 だがそうだとしても、彼女からお前には言い出せないだろう」
「分かった」