28-3 レッドローズ(5)
アンドレアスは頭を悩ませていた。 今やレッドローズは3千人を超えていた。 もはや逃げる人々から、幾ばくかの金をもらってやっていける状況ではなかった。 国に雇われているわけではないので、団員達への給金を自分達で手当するしかなかった。 それに問題はそれだけではなかった。 ボスリア王国がガーラント王国への従属を誓ったのだ。 それによってボスリアは難民の入国を拒否したのだった。 既に入国している難民については国外退去を命じた。 難民達はやっと逃れてきたのに西に追い返される者、東に追い出される者、いずれにしても行き場をなくしていた。 そのような人々を前に、アンドレアス達は岐路に立たされていた。
「ミネルバ、どうするつもりだ。 色々な意味で俺達は行き詰まっているぞ」とケビン。
「分かっている。 我々がこれを始めたのは、そこに困った人々がいたからだ。 今状況は変わったが、困った人々がいなくなった訳ではない」とアンドレアス。
「では今後も難民達を守るということですかな?」とグラント。
「ああ、そうだ」
「だけど、行き場のない難民達をどうするつもりですか」とゴーセル。
「ガレジオン山脈を超えてオーリンの森へ逃がす」
「何だって、緑のレギオンに送るのか」とケビン。
「しかし、緑の王は受け入れてくれますかな。 しかも貴方は緑のレギオンから追放になったのでしょう?」とグラント。
「緑の王は慈悲深い方だ。 きっと難民を悪いようにはしない。 私の件は別問題だ、緑のテリトリーまでは私は行かない」とアンドレアス。
「そうするとして、橙の奴らやその指示で動いているタイロンやアストリアの軍に目を付けられて、衝突することになるぞ。 そうなれば俺達は反乱軍扱いで国中のお尋ね者になる」とケビン。
「その通りだ。 だからここで皆にはかろうと思う。 私は決めた。 それでも私について来るという者だけで再編成する」
「分かった。 それだけの覚悟であれば、私はついて行こう」とグラント。
「俺もついて行くぜ。 あんたについて行けば、退屈せずに済みそうだ」とゴーセル。
「ケビン、離れて良いぞ。 お前は頭の良い奴だ。 我々の分が悪すぎる事くらい、お前が一番分かっているだろう」
「何を言う。 俺が最初にあんたについて行かせてくれと頼んだのじゃないか。 最後まで見届けるよ。 だがまだ死ぬのは真っ平なんで、ヤバそうになったら逃げ出すかも知れないがな」と笑った。
「だが、そうなると色々な問題を解決せねばなりません。 金の問題、物資の供給、それと拠点、まずはそんなところですかな」とグラント。
「金の問題はケビン、お前が交渉してくれ。 金をたっぷり持っている商人や貴族から多く出してもらってくれ、多少脅してもかまわん。 物資については近隣の町や村から少しずつ調達するしかない」
「分かった。 それと拠点についてだが、俺に少し心当たりがある。 ここから南東に100キロほど行った山岳地帯に、昔魔人族が使っていた山岳都市がある。 前に軍が調査したときには、しっかりした石造りのために少し手を加えれば今でも十分使えるという報告だった。 そこは数万人こもれる要塞だ」
「ソドンの要塞か。 聞いたことはある。 良いだろう」とアンドレアス。
「ならば俺が5百ほど率いて確認に行こう」とグラント。
「頼む。 ではそう言うことで、皆に話すとしよう」そう言うと、アンドレアスは立ち上がった。
アンドレアスが団員全員の前で状況を説明し、去るも残るも自由だと告げた。 翌朝、約千人が去っていった。




