27-3 緑の王都
3日後、セントフォレスト
ギルダとジョエルは、飛竜を王都の城外の業者に預け、徒歩で街に入って行った。 城門は特に呼び止められることも無く、すんなり通過した。 二人は門番に呼び止められた時の偽装を考えていたので、あまりに容易に入れたため拍子抜けしたくらいだ。
「あまりに平和で警備が緩いのか、門番の兵が怠慢なのかどちらだろう?」とギルダ。
「門番の警備が厳しいと、人々の往来と物流が制限されます。 恐らく都市の活性化のために、明らかに怪しいと思われる者以外は詮議しないのでしょう」
二人はしばらく街の市場や住宅地などを、あちこち見て回った。
「とても活気のある良い街だな」とギルダ。
「そうですね。 それに獣人族など他の種族の人々も普通に商売しているし、他の王都では考えられないですよね」
「これが、このレギオンの強さの秘密の一つなのだろう」
「緑のレギオンが戦うときは、他の種族も出兵します。 王が種族による差別をしないために、兵の士気も高く連携もうまく行くのでしょう」
「それに人に王のことを聞いても、意外とあっさり答えてくれる。 評判は良いものもあれば、否定的なものもある。 だが驚いたのは人々が自由に思っていることを言えるということだ。 水晶の王都で王について批判的な事を言ったら、たちまち逮捕されるだろう」
「そうですね」
「ますます王に会って見たくなった」
「ギルダ様、どうされますか? レーギアに行きますか。 急な訪問なので、今日は会えないとは思いますが」
「うーん、あまり気乗りしないのだがな。 レーギアで会うと、こちらの訪問をいぶかしまれ、本音での話し合いが出来ないと思うのだ。 それに水晶や銀の王に、緑の王と会った事が伝わるのは避けたいな」
「確かに。 ですがそれは難しいですね。 ギルダ様はここでどなたかお知り合いの方はいらっしゃいますか?」
「いや、誰もいない」
ジョエルがどうするか考えながら歩いていた時、病院と思われる建物の前に通りかかった。 建物の中からは紫色の髪の若い女性が出てきた。 王都を巡回している兵士とは違う制服の兵士が5人、明らかに護衛に付いている感じだった。
(身分の高い人物と言うことか)ジョエルは思った。
「ファウラ様、今日もありがとうございました。 王様にもよろしくお伝えください」 建物の責任者と思われる中年の男が女性に挨拶をした。
(王様だと!)ギルダはジョエルと顔を見合わせた。
「ファウラ様、真っ直ぐレーギアへお戻りと言うことでよろしいですか?」 兵士の一人が言った。
「そうね、市場の近くのお店で、カケル様へのお土産に菓子を買いたいわ」と女性は言った。
「承知いたしました」
ファウラが店に入って商品を選んでいるときに、ギルダは何気なくファウラに近づき、小さくたたんだ紙片を手渡した。 不思議な顔をしたファウラを残し、ギルダはそのまま店を出た。 ファウラは少し驚きながらも、そのまま平静を装って人目の無いところまで行くと、密かに紙片の中身を読んだ。
その夜、二人の宿
「あのファウラという女性がどのような方か分かりました。 カケル王の奥様です」とジョエル。
「もしかしたらと思ったが、やはりそうか。 だがどうしてお妃様があのような所におられたのだ」
「なんでもあの方は、時間が空くと治療院で、兵士や民間の人々の治療の手助けをなされているそうです」
「なるほど。 うまく王に会えるように計らってもらえるだろうか」
「どうでしょう。 ヘタしたら怪しい奴と思われて、この宿に兵達が踏み込んで来てもおかしくないですよ。 まあそうはならないとは思いますけどね」
「どうなるだろう」
「たぶん明日何らかの知らせが入るでしょう」




