27-2 理不尽な申し出(2)
水晶のレーギア
ギルダはひどくムカついていた。 先ほどの水晶の新王と白の王との面会があまりにも屈辱的だったからだった。 白と水晶の戦いで白が勝利し、水晶が白の下に付くことになったと聞いたギルダは、新王に挨拶に来ていたのだ。
「ジョエル、あれは何だ。 我らは新王の即位の祝いと今後の関係の確認のために来ただけだぞ。 あれでは我らは属国扱いではないか」 ギルダはレーギアの庭を飛竜の竜舎へ向って歩きながら、随行してきたジョエルに怒りをぶつけるように言った。
「ギルダ様、声を下げてください。 誰が聞いているか分かりません」とジョエルは小声で言いながら、辺りを見回した。
「かまうもんか」そう言いながら、先ほどの会話を思い出した。
1時間ほど前、応接の間
「良くおいでくださいました、ギルダ王」とターニャ。
「ターニャ王、即位なされたことにつきましてお喜びを申し上げます」とギルダ。
「ありがとうございます。 そしてこちらが、白の王であらせられますヒョウマ王です」 ターニャは隣に座る、目つきの鋭い若い男を紹介した。 男は黙って頷いた。
「さて、今後のことですが、水晶と黄の同盟は引き続き継続すると言うことでよろしいでしょうか?」とギルダ。
「そうですね」とターニャが言ったところで、ヒョウマが割り込んできた。
「いや、ダメだ。 黄は私に従ってもらいたい。 今の同盟ではあくまで水晶と黄の間において有効なものだ。 それでは例えば銀から赤が攻められた時に、黄は援軍を送る義務は無い。 私は4つのレギオンをうまく連携させて運用したいのだ」 ヒョウマは至極当然な顔をして言った。
「な、それでは我らの主権を侵すことになります」とギルダの後ろの壁際に立っていたジョエルが言った。
「黙れ、お前に話していない」とヒョウマ。 ターニャは困惑した顔をしていた。
「ヒョウマ王、これは水晶と黄の問題です。 口をはさまれるのは、ご遠慮願います」ギルダは怒りを抑えながら言った。
「そうはいかない。 ターニャは私のサムライだ。 ターニャの意向は私の意向だ」
「そうですか、それならば同盟については、我々も再考しなければなりません。 我らは独立したレギオンです。 水晶とは対等な同盟を結んだのです」
「そうか、ならば好きなようにするが良い。 だが良く考えた方が良いぞ」 ヒョウマは、話は終わりだと言わんばかりに立ち上がって、部屋を出ていった。 ギルダはこの件は持ち帰って、後で結論を伝える旨を述べて辞去した。
ターニャ王の居室
「ヒョウマ様、あれでは黄は同盟を解消すると言ってくるでしょう」とターニャ。
「言ってこないよ。 彼らは最終的には我らに従うしか無い。 どういう立場かは最初にはっきりさせておいた方が良い」
「ですが、我らに反発した結果、銀と同盟を組むかも知れません」
「銀の王が黄と対等の同盟を結ぶはずが無い。 黄の王はどちらかの選択に迫られるだろうが、結局こちらを選ぶだろう」
「万一、銀を選んだ時は?」
「速攻で攻め落とす。 さっきその警告はしたつもりだ」
「・・・・」
「さあ、もうその話は終わりだ」 そう言うとヒョウマは、ターニャを軽々と抱き上げベッドまで運んだ。
竜舎の前
「ジョエル、私はどうして良いのか分からない。 今の話しもとても飲めないものだし、先日来た銀の王からの話しも同様だ。 だがこのまま単独で生き抜くのも無理だと言うことも分かっている」
「申し訳ございません。 私がついておりながらこのようなことになり」とジョエル。
「ジョエルのせいでは無い。 私に力が無いからだ」 そう言った時、急に何かを思いついたように、ジョエルの顔を見た。
「ジョエル、私は一度緑の王に会って見たいと思うのだが」
「しかし、緑との同盟は難しいかと・・」
「いや、同盟の話をしにいくのではない。 ただ単にどのような王なのか会って見たいだけだ」
「分かりました。 このまま南下してみましょう」
二人は飛竜に乗ると、飛び立った。 王都を離れるまでは東に進路を取っていたが、その後進路を南にとった。




