27-1 理不尽な申し出(1)
銀のレーギア、バラス王の執務室
「バラス様、水晶と白のレギオンの戦いで、白が勝ったようです」とシーウエイ。
「そうか、それで我らにどう影響が出てくる」とバラス王は聞いた。
「まずい状況ですね。 これで白の王は3つのレギオンを手にしたことになります。 これによってこの大陸は、大きく4つの勢力に分かれました。 まず紫を中心とする西の勢力、そして緑の王を中心とする南の勢力、そしてこの白の王を中心とする中央、北部の勢力が第3の勢力として台頭してくることになります。 そうなると我々は4番目の勢力となってしまいます」
「そんなことは許容できない。 どうするのだ」
「黄のレギオンをこちらに取り込みます。 黄のテリトリーからは、自動車や戦車の燃料の元になる“黒油”が産出されます。 どうしてもあそこはこちら側に押さえておく必要があります」
「だが、黄は水晶と同盟を結んでいるのでは無かったか?」
「そうです。 しかし今回、メルデン王が亡くなり新王が立ったことによって、必ず同盟の見直しが行なわれることになるでしょう」
「何故だ? そのまま同盟を維持した方がお互いに利点があるだろう」
「そのまま対等の同盟ならそうでしょう。 ですがそうはならないでしょう。 白の王は強引で自分の思い通りに事を進めようとするそうです。 この機に支配下に収めようとするでしょう」
「なるほど、それでこちらはどう出る」
「使者を送り、我々との同盟を持ちかけます」
「どのような内容だ」
「一応、対等の同盟です」
「フン、“一応”だな」とバラスは笑った。
「そうです」シーウエイも笑った。
「分かった、使者を送れ。 だが断ってきたらどうするのだ?」
「その時は攻めます。 あそこは外せません。 新兵器にも大量に油が必要になります」
黄のレーギア
「銀の使者殿は、この度はどのような御用向きでしょうか」とジョエル。
「はい、ギルダ王もご存知かと思いますが、水晶の王が亡くなり新王が立たれたとのことです。 しかもこの度の白との戦いに敗れて、軍門に降ったと聞き及んでおります。 そうなりますと、現在水晶と黄で結ばれている同盟につきましても、状況が変わりましたので当然見直しが必要になるのではと考えました。 つきましては、水晶のレギオンとの同盟は解消されて、我が方との同盟を締結願いたいとまかり越した次第です」
ジョエルはギルダの顔見た。 ギルダは困ったような顔をした。
「使者殿、大変ありがたいお話ではありますが、同盟というのはお互いの信義に基づき、堅く守らねばならぬものです。 こちらの都合だけで破棄できるものではありません」とジョエル。
「誠にすばらしいお考えです。 ですが、水晶の方では同じように考えているでしょうか。 と言うより、白の王は黄のレギオンを属国のような扱いをされるかも知れませんよ」
「そのような時には、同盟について再考することになるかも知れませんが、まだそうなった訳でもありませんし、推測で動くわけにもまいりません」
「分かりました。 ただその時には、銀のバラス王は黄に対して手を差し伸べる用意があるとご承知おきください。 我らにとって、黄のレギオンはとても重要な取引先でもあり、今後とも関係を深めたいと考えております」
使者が帰った後、ギルダはジョエル、ルーク、他の重臣達も交えこの件について検討した。
「基本的には、このまま水晶との同盟を続けると言うのが最も良いと考えます」とジョエル。 他の重臣達も頷いた。
「だが銀の使者が言ったようなことになる可能性もあるのだろう? その時は銀と同盟を結ぶのか?」とルーク。
「話はそんな単純ではない。 銀が我らを必要としているのは、砂漠から黒油が出るからだ。 彼らの持つ、戦車などの機械兵器には大量の油が必要と聞く。 だから我らを属国にして完全に押さえておきたいと言うのが本音だ。 だから同盟とは言うが、実体はそうはならないでしょう。 ヘタをすると、今回銀の申し出を断ったら、速攻で攻め込まれる可能性が高いと考えています。 使者が最後に言った言葉は、暗にそのことをほのめかしていたのです」とジョエル。
「ではどうするのだ?」とルーク。
「取りあえず、新王に対してお祝いの挨拶に行きましょう。 そして新王がどのような人物か、同盟に対してどのように考えているのかを知ることが、第一にするべきことと考えます」
「分かった、私とジョエルで行こう。 どうするかはそれからだ」とギルダ。
「承知いたしました」とジョエル。




