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3-14 商談

 3日前、ゴスローの町

 街のはずれにある、宿屋も兼ねた酒場の中、ランプの明かりが十分届かない薄暗い奥のテーブルに、男は近づいて行った。 と手前のテーブルから足が出てきた。

 「待ちな、これから先は行けねえ」足を出した男が言った。

「お前たちのお頭に話がある。 もうけ話だ」 黒いズボンに茶色の上着の男が言った。 足を出した男は、後ろのテーブルに座った大男の方を見た。 奥のテーブルの男は、黙ってうなずいた。

「いいだろう、ただし武器はなしだ」と言うとボディチェックをして、腰のナイフを預かった。 男は奥のテーブルまで行き、座ってビールを飲んでいる男の向かいの席に座った」


 「何者だ、俺がだれだか知っているんだろうな」 男はジョッキをテーブルに置いて言った。

「あんたは紅の狼の頭、オーレン・ガウジー。 『赤っ鼻の熊』とも呼ばれている。 俺はマウジー、訳あって素性は明かせない」

「フン、偽名だな。 まあいい。 もうけ話があるとか言っていたが・・・」

「仕事を頼みたい。 ある6人を始末して欲しいのだ、男が2人、女が3人、獣人族が1人だ」 男は包帯を巻いた左手を右手でさすった。 正面の頭がはげ上がり、赤鼻の大男は、その手をいぶかしく思いながら、言った。

「確かに俺たちは、堅気な仕事はしていない。 しかし、殺しは俺たちの専門じゃない、他を当たった方がいいだろう」

「いや、あんたがたがうってつけだ。 何故なら夜盗に襲われたという体で死んでもらわねばならないからだ」


 「なるほど、それはいつ、どこでだ」 赤鼻の男は剣と斧が交差した入れ墨をした右腕をジョッキに伸ばすと、一気に飲み空になったジョッキをテーブルに置いた。 赤い口ひげには、白い泡がついていた。

「ここから西に約50キロのところにシュルメという村がある。 そこに2、3日後に山から下りてきたその6人が村を通る。 その時盗賊団が村を襲い、6人は運悪くその巻き添えをくって死ぬ。 つまりあんた方は、いつも通りの仕事をするだけだ。 ただ時と場所をこちらの希望するところでやって欲しいと言うことだ」 男は足を組み、両手を膝の上においた。


 「悪くない話だ、いくら出す。 言っておくが金貨で150以下では受けられないぞ」 赤鼻は通りかかった給仕の女にジョッキを上げて見せ、ビールのおかわりを頼んだ。

「300」男は静かに言った。

「300だと、そいつ等は何者だ、正直に言え」 赤鼻は睨むように男を見つめた。

「緑のレギオンの者だ。 女たちはなかなかの腕だ、男の方は、剣は素人だがレムを使える。 油断すると痛い目にあうぞ」

「レギオンだと、それはだめだ。 レギオンともめたくはない」 そこまで言った時に給仕がビールを持ってきて、テーブルに置いた。 男は女が去るのを待ってから、言った。


 「レギオンの方は大丈夫だ。 奴らはこの件で報復することはない。 何故なら、奴らの行動は極秘で、公には出来ない。 盗賊ごときにやられるような者をレギオンの一員とは認めない」

「ずいぶんな、言い方だな。 前金で500だ」 赤鼻は不機嫌なのを隠しもせず言った。

「500だと、いくら何でもふっかけすぎだ」

「そうかな、俺はこれでもサービスしていると思うが。 おれは50人近くの者たちを食わせなくちゃならねえ、と同時にそいつ等の命も預かっているんだ。 レギオンの者たちは相当な強者に違いねえ、あんた自身も手に負えなかったんだろう」そう言うと男の左手の包帯を指さした。

「あんたの言うように、この仕事を引き受ければ、おそらくこちらの被害も相当の数になるはずだ。 俺は、頭として亡くなった奴らのカカアやババアに見舞金を出さなきゃならねえ」 赤鼻は皿に載った鶏の丸焼きから脚をもぎ取るとかぶりついた。


 「いいだろう、ただし前金300残り200は成功報酬だ。 それと村は必ず襲った方がいいぞ、でなきゃレギオンは、レギオンに対する敵対行動とみなし、後で必ず報復部隊を送り込むぞ」

「お前、レギオンの者だな、もしくは関係者だ」

「余計な詮索はしない方がいい。 今手持ちは300しかない。 残りはここの主人に明日の夜までに預けておく」と言うと、ずっしりとした皮の袋をテーブルに置いた。 頭は袋の中をのぞき、金色の輝く硬貨を見ると一枚を取りだし、手の平にのせて確認した。 その後袋の重さを確認すると男に向って言った。

「商談成立だな」


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