25-4 白の急襲
ヒョウマは6万の兵を率いて、ゴルゴン山脈を越えていた。 白の人族2万5千、巨人のレグナ族が3千、氷塊兵が2千、赤の兵が3万だった。 赤の兵達は1月ほど前に密かにホワイトキューブに着くと、白の兵達と一緒に雪中行軍の訓練を行なっていた。 白の兵達は寒さに強く、冬の出兵にも対応出来た。 だがそれでも雪のある冬のゴルゴン山脈越えは危険な行為だった。 吹雪による遭難や雪崩、滑落や低体温症など、高いリスクがあるにも関わらず、ヒョウマは出兵を強行したのだった。
この作戦を提案した時、クレオンは言った。
「ヒョウマ様、経験豊富な参謀や軍師は決してこのような作戦は提案しないでしょう。 それほどこれは非常識な作戦です。 ですがそれ故、相手の隙を突けるかも知れません。 今回の戦いの勝利は、天聖球の奪取です。 敵軍の撃破ではありません」
「うむ、それでどうする」
「赤との連合軍で密かにゴルゴン山脈を越え、水晶の王都を急襲します。 そして王都の城門を攻め、そちらに軍の目が向いている隙に、ヒョウマ様自らレーギアに潜入していただきます。 臣下が主人にこのようなことを提案するなど、論外なことではあります。 しかし水晶の王に対峙して、天聖球を奪取するとなるとそれは12王にしかかないません」
「いいねえ、私はかまわない」
「更に、王都に攻撃を加える時期は、12月の最後の週です。 彼らの太陽教では、1年の終わりの週は神に感謝し、争いごとを嫌います。 敬虔な者達はその間断食も行ないます。 そのため兵達の士気も上がらないでしょう」
「分かった、大いに気にいった」
12月の最後の週の早朝
ヒョウマ達は腰近くまである雪の中を、ゴルゴン山の南の斜面を降っていた。 兵達は厚い毛皮の防寒着の上に白い布のコートを着ていた。 兵達が発見されるのを、出来るだけ遅らせたかったからである。 その日の夕方には、王都の郊外まで到達した。
水晶のレーギア
「何だと、白の連中が攻めてきただと! 今は神への感謝を捧げる時だぞ。 罰当たりな異教徒どもめ! それで兵数は?」 メルデン王は激怒した。
「約6万です。 ただその中には毛むくじゃらの巨人や氷で出来たゴーレムのような物も見受けられます」とターニャ。
「こちらはどれだけいる?」
「約5万です。 ですが先の緑との戦いで負傷した者が多く、万全に戦える者は2万程度です」
「黄に送った援軍を呼び戻せ!」
「クリフ殿に連絡しましたが、戻って来るまでには急いでも20日以上かかるでしょう」
「何だと、もしかしたら赤が黄を攻めたのは、これを狙っていたのではないのか?」とメルデン。
「申し訳ございません。 今考えてみれば、明らかにこちらの兵力を削ぐための陽動だったと思われます」
(またやってしまった。 どう挽回する)
「クソッ、この時期を狙ったのもわざとか。 どうする」
「当面堅く守ります。 そしてクリフ殿の到着を待って、外と内から挟撃します」
「忌々しいが、それしかあるまい」
翌日から、ガーリンとサツカは、王都の東門を攻めた。 門だけでは無くレグナ族は城壁を破壊しようと、巨大な棍棒で壁を叩き続けた。 水晶の兵達は城壁の上から矢や煮え立った油を浴びせた。 ガーリン達は果敢に攻めたが、水晶の兵達も必死に守った。
その夜、ヒョウマはクレオンに言った。
「グズグズするつもりはない。 今夜やるぞ」
「ヒョウマ様、今日は兵達も疲れております。 明日以降で良いと思います」とクレオン。
「いや、ぐだぐだ長引かせるつもりはない。 かえって今日だから向こうもまさかと思うだろう。 供はガーリンだけで良い」
「承知いたしました」とガーリン。