25-2 赤の始動
グラスは屈強な兵士3万を選りすぐり、白の王都を目指して兵を密かに出発させた。 11月、もうすぐゴルゴン山脈には雪が降り始める頃である。 その前に山を越えたかった。 出発は未明に行なわれ、王都の内部でもそれを知っている者は関係者のみだった。
グラスは兵を送り出すと同時に、サムライのキラウとトウカに残った兵に出兵の準備を進めさせた。
1カ月後
グラスは黄のレギオンを攻める事を宣言し、キラウとトウカに3万の兵を率いて黄の王都ヒマールを目指して進軍を開始させた。 王都は発したのは早朝だった。
黄のレーギア
「ギルダ様、赤のレギオンがこちらに向けて兵を発しました」 ジョエルが深刻な顔をして報告した。
「何、何故こんな時に? 兵数はいくらだ?」
「赤のレギオンは約6万の兵力があったと見られています。 王都には僅かな守備兵しか残っていないということですので、6万が出兵したと思われます。 これから雪が降れば、水晶のレギオンからの援軍が困難になると見越しての出兵かと思われます」
「どうするのだ」
「水晶のメルデン王に速やかに援軍を求めます。 グズグズしてると、雪を理由に援軍を渋る可能性があります」
「だが、前に水晶からの援軍要請を断っているぞ。 何のかんの理由をつけて援兵を断るのではないか」とルーク。
「我々が断った時とは状況が違います。 これを断れば、同盟は意味を成さなくなります。 メルデン王は断れません」とジョエル。
「分かった、そのように進めてくれ」とギルダ。
「承知いたしました。 ただ少し気にかかる事があります。 密偵からの情報によると軍勢は6万には見えないと言うことです。 軍勢を多く吹聴することは良くあることですが、もしかしたら軍を既に分けて密かに潜行させている可能性があります。 残念ながら我らの情報網では、正確な情報が十分入手出来ているとは言えません」
「無いものねだりをしてもしようがないだろう。 あるもので最善を考えよう」とギルダ。
「そうだな」とルーク。
水晶のレーギア
「何だと、赤が黄に向って進軍中だと」とメルデン。
「はい、黄のギルダ王から援軍要請が入っております」とターニャ。
「良く言うわ。 こちらが援兵要請を出した時には断ってきたくせに。 適当に理由をつけて断れ」 メルデン王は顎を拳に載せながら、めんどうくさそうに言った。
「それはいけません。 それでは盟約をこちらから破る事になります。 それにもしそれで黄が敗れてしまうようなことになったら、我々は笑いものになってしまう上に、周りを敵に囲まれてしまうことになります」
「うぬーっ、不本意だが援軍を送る他あるまい。 1万ほどで良いだろう」
「敵は6万と言うことです。 それに対して黄は3万ほどです。 1万では撃退するのは難しいかと・・」とクリフ。
「ならば幾らなら良いのだ」
「3万は送るべきかと考えます。 それに送るならば、速やかに出発させる必要がございます。 もうすぐ雪が降るでしょう、そうすれば進軍が遅遅として進まず、開戦に間に合わない恐れが出て参ります」とターニャ。
「忌々しい! 分かった、それで手配せよ」 メルデンは投げやりな言い方をした。
「かしこまりました」とターニャ。
(メルデン様は敗戦後、気力が萎えたように見える。 政務にも身が入られていないと聞く。 全て私のせいだ) メルデンは敗戦について、ターニャを責めなかった。 だがかえってそれが余計に心苦しかった。




