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3-13 村

 山の東側は、西側よりは緩やかな斜面になっていた。 あいかわらず、道の状態は良いとは言えなかったが、大分楽な道のりだった。 俺の肩にはクロームが乗り、後ろをちょこちょこドラゴンがついてきた。 ジュリアンのところに、ホーリーとエレインが近づいてきて、小声で言った。

 「ジュリ姉、体が変だ、いつもより体が重く感じるし、体のキレが悪い。 私だけなら個人的な体調不良かもしれないが、エレインもだという」 エレインがうなずいた。

「実は私もそれは感じていた」とジュリアン。

「もしかしてオークリー様に何かあったのでは・・・」

「それは、分からない、しかし滅多なことは言ってはだめよ」 2人はいつもの位置に戻り歩き続けたが、ジュリアンの顔はくもっていた。


 谷あいの村が見えてきた。 この村を過ぎればレギオンのテリトリーまでは30キロも無い。 麦やトウモロコシの緑の畑の中に30戸ほどの家が点在している。 ジュリアンは村に向いながら思案していた。

(この体の不調とまでは言わないが、運動機能の低下は疲れのせいなのだろうか、それとも・・・) 最悪の事態は考えたくは無かった。

(このペースだと、あの村で今夜は宿を借り、明日レギオンに入るのが良いだろうが、少しでも早く戻るべきか。 いずれにしても、早急にアンドレアス様と連絡を取る必要があるわね)


 村の近くの森の中を通っていた時に、突然藪の奥から若い女性の悲鳴が聞こえた。 ホーリーとエレインは藪の中へ走って行った。 藪の向こうには、いかつい体に日焼けした顔の男が2人いて、一人は15才ぐらいの娘の両腕を押さえ草の上に押し倒していた。 もう一人は7才ぐらいの泣いている男の子の腕をねじり上げていた。

 「止めろ!」 ホーリーは腰から鞭を外すと、女の子に馬乗りになっていた男の背中に打ち込んだ。 そのまま続けてもう一人の男の腕に鞭を打ち下ろした。 鞭は男の右腕に絡み、握っていた男の子の腕を放した。 エレインは剣を抜いた。

「殺すな、子どもが見ている」とホーリー。 エレインが躊躇した隙に男は、石をエレインの顔に投げつけた。 エレインが石を避けようとしているうちに、男は素早く逃げ去った。


 「ちっ、お前は観念しろ」と言うと、もう一人の男の首に剣を当てた。

「こ、殺さないでくれ。 お願いだ」とそこへ座り込んでしまった。

「大丈夫か」ホーリーは女の子に声をかけた。 男の子がかけてきて、女の子に抱きついた。

「はい、ありがとうございます」 女の子も涙目でこたえた。 そこへ俺たちが姿を現わすと、エレインは男の手を縛りあげていた。

「何があったの?」 ジュリアンが男の方を一瞥すると、女の子に優しく聞いた。

「あたしと弟のニッカは、山に薬草を採りに来ていたの。 そしたら急にあの人たちに襲われて・・・」と男を指さした。

「あの男は村の者かい」とジュリアン。

「いいえ、知らない人です」 男は俺たちを見ると、ひどく驚いた様子だった。


 「お前は何者だ、その軽装では山を越えようとしている旅行者にも見えない。 何のためにここにいる」 ジュリアンは問い詰めた。 だが男は顔を背けたまま無言だった。

「この野郎、なめていると痛い目にあうぞ」とエレインが殴りかかろうとして、胸ぐらをつかんだ。 その時、上代がエレインの手を止めた。

「僕に任せてくれ」そう言うとジュリアンの顔を見た。 ジュリアンは無言でうなずいた。 上代はホーリーからナイフを一本借りると、鞘から抜き切れ味を確認するかのように見ながら、なるべく冷酷に感じるように、低い声で抑揚を押さえながら男にいった。


 「これから俺が、お前にいくつかの質問をする。 もちろんそれに答える、答えないはお前の自由だ。 しかしその選択次第で30分後のお前の状況は全然違ったものになる」 男は、上代の話を頑なに無視し続けた。 上代はナイフをもてあそびながら続けた。

 「お前が正直に答えれば、無傷で帰れる。 しかし拒否するならば、お前の忍耐強さがどれ程のものかを試すことになる」 男はフンと鼻で笑った。

「そうか、お前は勇敢にも挑戦してみたいと考えているようだな。 それでは俺がこれからどうしようとしているかを、事前に話しておこう。 まず質問に答えなかった場合、または嘘を答えた場合、手の爪の間にこのナイフを差し込み、爪を一枚ずつ剥いでいく。 それでもまだ我慢を続けられのならば、その次は足の爪だ。 その次には、お前の耳を切り落とす。 その次は鼻だ。 そして目をくりぬく。 果たしてどこまで耐えられるかな。 それから、こちらにおられるのは大レム使いで、お前が嘘を言ってもすぐ分かってしまうぞ」とクロームの方を向いた。 男の顔は少し青ざめていた。


 「それでは、始めようか。 まず、お前は俺たちが何者かを知っているな」

「知らない」男は下を向いた。

「嘘をついたな。 お前は俺たちの姿を見たとき、驚いていた。 それは突然現れて驚いたと言うより、まずいときに現れたと言うような感じだった。 じゃあ、お前の我慢力を試してみるか」と言うと男の左手の人差し指を握ると、ナイフを近づけた。 男の手が震えだし、男は大きく目を見開くと叫んだ。

「止めてくれ、言うから、そうだ知っていた」 上代はナイフを止めた。

「お前たちは、緑のレギオンの者だろう」


 「よし、次だ。 お前たちは何者だ」 男はまた黙った。

「オイオイ、お前はもう一度答えてしまったんだぞ。 一つ答えるのも、二つ答えるのも一緒だ」またナイフを近づけた。

「わ、分かった、言う。 言うから本当に無傷で帰してくれるんだろうな」

「良いだろう、それは約束する」

「俺たちは、『紅の狼』だ」男は、観念したように話始めた。

「紅の狼?」 上代はジュリアンの顔をみた。

「この辺りを荒らし回っている盗賊団の一つだ。 この辺はボスリア王国と緑のレギオンの緩衝地帯といえる。 ボスリアの軍隊は、レギオンともめることを恐れて、あまりこの辺までは来ない、万一軍隊に追われた場合、レギオンのテリトリーに逃げ込むということを繰り返す、ドブネズミのような奴らだ」とジュリアン。


 「なるほど、それでその紅の狼がここで何をしていた」 男は少しためらってから言った。

「お前たちが来るのを見張っていたんだ。 山から村に入る道が見える場所で、ゴッザとずっと見張っていたんだが、退屈していた時にこの娘が山に登って来るのが見えて、ゴッザが『あの娘で楽しもうぜ』って言ったんだ」

「屑野郎が・・・」エレインが男をさげすむ目で見ながら吐き捨てた。

「なぜ、俺たちを見張っていた」

「お前たちを、この村で殺すためだ」 上代は動揺を表に出さないよう、平静をよそおいながら、続けた。

「ほう、誰に頼まれた」

「知らない男だった。 三日前の夜、そいつはお頭の前に現れた」

「もう少し、詳しく聞かせてもらおうか」


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