24-2 黒の王都
黒の王都ブラックストーンは、水の都だった。 二つの川が王都を縦断し、水路が網の目のように張り巡らされていた。 建物は東のバレル山脈から切り出される黒い石が多用されていた。 そのため街全体が黒かった。
王都の郊外に飛空船が着陸すると、レギオンの馬車が迎えに来ていた。 俺達は2台の馬車に乗り込むと、レーギアまでは兵達の護衛付きで向った。 王都のレーギアまでの沿道には、俺達を一目見ようと多くの人々が集まり手を振っていた。 俺は驚いた。 何故ならこの歓迎ぶりは、1年前に敵として戦った王に対するものではなかったからだ。 だが後にその理由が分かった。 俺達が歓迎されていることには間違いないが、それ以上に同行していたグレンを歓迎していたのだった。 人々は竜王を一目見たいと思っていたのだった。 彼らにとって竜王は神にも等しいのである。
レーギアに着くと、ザウロー王がにこやかに迎えてくれた。
(初めて海上で会った傲慢なサムライとは、とても同一人物には見えないな)
「良くおいでくださいました」とザウロー。
「お招きありがとうございます。 大分落ち着かれたようですね」
「いやいや、まだまだこれからですよ。 課題も多いですしね。 まあその辺のお話はゆっくりいたしましょう」
その日は歓迎の宴となった。
翌日、ザウロー王との会談
「おかげさまで、ようやくレギオンの再興にも目途が立ってきました。 しかしながら国力という意味ではまだまだです。 そこで緑のレギオンだけではなく、藍や青も含めまして広くご協力いただければと考えております。 交易や農業、産業の技術開発など幅広くお互いに協力していきたいと思うのです。 いかがでしょうか」とザウロー王。
「そうですね、それはお互いに得られるものが大きいと、私も考えます」
「おお、ありがとうございます。 それと軍事面でも、またいつ銀の侵攻があるかも知れない状況です。 あそこは戦車という強力な兵器を持っています。 それに対抗するには、お互いにうまく連携する必要があると考えています」
「その通りだと思います」
「それでですが、我らにもバズーカ砲の技術を伝授していただけないでしょうか」
(ユウキが言っていたのはこの事か) 俺は少し考えてから言った。
「それは構いませんが、一気にはあまりお勧め出来ませんね」
「何故でしょう」
「単価が高くなってしまうからです。 先日も財務大臣から金を使いすぎだと言われました。 それで当面は我々が受注してその分も含めて生産する、と言うことにした方が、生産コストが下がります。 そうしながらそちらから職人を派遣してもらい徐々にノウハウを修得してもらうようにしてはいかがでしょうか」
「なるほど、分かりました。 ではそのようにお願いいたします」
午後は改めて王都を案内された。 市場や街中の人々の活気は旺盛だった。 俺達の馬車が通ると、人々が集まり手を振った。
その夜の宴は小規模なものだった。 昨夜の宴はレギオンの重臣や王都の有力者など200人ほどの晩餐会のようなものだったが、今夜は20人ほどだった。 大きくない部屋に椅子ではなく絨毯の上に、丸くあぐらをかいて座る形式だった。 警護班も加わっていた。
「カケル王、どうぞ今夜は気を楽になさってください」とザウロー。
「ありがとうございます」
若くて美しい女性達が、次々と料理や酒を運び込んだ。 そして俺やグレンの隣に座ると酒や料理を勧めるのだった。 特にグレンは大人気だった。 グレンは酒が飲めないので困惑していた。
「見てご覧よ、ホーリー姉。 あの女達、あわよくば竜王様の子種を授かろうという魂胆だよ」とエレイン。
「カケル様も何だか鼻の下伸ばしているね」とアビエル。
宴がお開きに近づいた頃、ザウロー王が俺に耳打ちした。
「カケル王、どれか気にいった女性がおりましたかな? よろしければ寝室の方へ行かせます」
「えっ、大丈夫です。 お気遣いなく」 そう言って断ったが、アビエルを見ると会話の内容に察しがついたのか、俺を睨んでいた。
宴が終わって寝室に入ると、ベッドが膨らんでいて誰かが寝ているようだった。
(あれ、断ったはずだが、それでもよこしたのだろうか)
俺は恐る恐る近づくと、布団をめくった。
突然、裸の女が飛び起きて俺の首に両手を回した。 俺は驚いた、その女性はアビエルだった。
「カケル様、今夜のお相手は私ですよ。 こっちの女になんか渡しませんからね。 ファウラからもしっかり守るように念押しされてるんですからね」 そう言うと俺にキスをしてきた。
「分かりました」 俺はそう言うと、アビエルの体を抱いたままベッドに入った。




