23-3 橙の王の屈辱(1)
塔の窓から庭までは、30メートル以上の高さがあった。 ムギン王は地面に降り立っていた。 続いた3人も降り立つと、騒ぎを聞きつけた獣人兵が多数集まってきた。 兵達がレムの灯りを空に幾つも浮かばせた。
「ムギン様、何事ですか? 賊ですか」 ザンバも慌てて駆けてきた。
「紫の輩だ。 余の命を取りにきたのだ、たったの3人で」
「飛んで火に入る夏の虫だ。 生きて帰れると思うな」 ザンバがゲブラ達に向って言った。
「フウッ。 ゲブラ、奴らは脳みそが足りないから状況が理解出来ないようだ。 とっととかたづけよう」とグレイガ。
「そうだな」 そう言うとゲブラはムギンの前に歩いて行った。
「状況が理解できていないのは、お前等の方だ。 金の王になっていい気になっているのだろうが、所詮レベル1だろうが、余はレベル3だぞ」
「関係ないんだよ。 まあいい、さっさと来い」とゲブラ。
「ムギン様、私が相手します。 お下がりください」とザンバが割って入ろうとした。
「おっと、あんたの相手はこっちだ」とグレイガは剣を抜いた。
「あとの雑魚どもはアタシにまかせな」とソアラ。
ムギンは空に向って大きく咆哮すると、体中の筋肉が盛り上がり体中に金色の長い毛が生えだした。 そして金色の狼に完全獣化した。 金狼は赤い目でゲブラを睨み、牙をむきだして威嚇した。 周りではザンバとグレイガ、ソアラと兵達の戦いが始まっていた。
ゲブラは金狼に向けて右手を上げた。 金狼はゲブラに向って飛びかかろうとした。 そして体の異変に気がついた。
(何だ、体が動かない。 と言うか何だ、この上からのしかかってくるような感覚は)
金狼は必至に四肢を踏ん張り、耐えているような様子だった。 前足は次第に前に地面を削りながら伸びていった。
(ヤバイぞ、体の上に岩、いや山がのしかかっているようだ。 何なんだこれは)
「抵抗しても無駄だ。 いくら怪力でも、お前は今この大地と力比べをしているのだから」とゲブラは上げた右手を徐々に下に下げていった。
遂に金狼は地べたに這いつくばるような格好になった。 周りで戦っていた兵達も王の異変に気づき、戦いを止めた。 だが誰も手を出せずに、成り行きを見守るしかなかった。
金狼は苦しそうだった。
「い、息が出来ない・・・」 肺が地面に圧迫されて、呼吸が出来なくなっていたのだ。
ゲブラは懐から銀色に光る金属製の輪を取りだした。 金属の輪は直径が40センチほどに広がった。 ゲブラは金狼に近づくと銀の輪を首にかけた。
「苦しい、助けてくれ、息が・・・」 ムギンが訴えた。
「私の言うことを聞くかね。 それともこのまま無様に死ぬか」
「わ、分かった言うことを聞く」とムギン。
「ワンと言え」
「・・・・」
「ワンと言え!」 ゲブラはムギンの頭の毛をつかむと迫った。
「ワ、ワン・・・」 消え入るような声でムギンが言った。 すると銀の首輪がしまった。 首を締め付けはしなかったが、首から抜けないサイズになったのだ。
「かかった」 ゲブラは立ち上がると、笑った。
ゲブラは右手をムギンの前に出し、重力の重しを解除した。 金狼は大きく深呼吸を繰り返した。 そして呼吸が落ち着くとゲブラを睨み、襲いかかろうとした。
「座れ!」 ゲブラの声に、ムギンは何故か動けず、そのまま地面に座った。
「お前はもう、私の犬だ。 私に逆らえない」
「何を言うか、誰がお前などに従うか」 ムギンは飛びかかろうとした。 すると突然、銀の首輪が締まった。
「グオッ!」 ムギンは首輪をはずそうともがくが決して外れなかった。 しばらく苦しんでいるとやがて締め付けが緩んだ。
「その首輪は、“隷属の首輪”、別命“呪いの首輪”とも言われている。 お前は、“私の言うことを聞く”ということに、同意した。 つまり契約は成立した。 お前が私の命令に反したり、私に敵意を持つと首輪は締まる」
ムギンの体は元の人の姿に戻っていた。 ムギンは両手で首輪を引きちぎろうとしたが、かえって締まる一方だった。 首輪はムギンが意識を失う直前で緩んだ。
「無駄だ、お前が12王でもそれは外せない」
「なんと言うことだ。 貴様、すぐに首輪をはずせ」 ザンバがゲブラに斬りかかってきた。 その剣はグレイガの剣で止められた。 その時、ムギンの首輪がまた締まった。
「お前の部下が、私に敵意を向けても同じだ。 だからお前は私の言いなりになるしかないのだ」
「そんな、バカな」
ゲブラは兵達に向くと言った。
「武器を捨てろ。 決着はついた。 これより橙のレギオンは、紫のレギオンの傘下に入る。 もう我々が戦う理由はない」
兵達が一斉に崩れ落ちた。