22-8 再戦
「まさか2対1ではないだろうな」 背後に声が聞こえた。 それは黒のレギオンのザウロー王だった。 俺は驚いた。
「ザウロー王、どうして?」
「カケル王からの援軍要請を待っていたのだが、一向に来ないので勝手に来ました。 水くさいですぞ、我らとて受けた恩義は忘れない。 とは言っても、兵を連れては間に合わないので、私一人なのだが・・・」
「済みません。 距離が遠すぎて要請しても無理だと判断しました」
「分かっています。 ところで、事情は今聞きましたので何も言いませんが、そっちの奴にちょっかいを出されては困るでしょうから、そっちは私がお相手しましょう」 ザウローはクリフを指さした。
(チッ、万が一にもメルデン様が負けそうになったら、後でメルデン様にしかられようと攻撃に加わるつもりでいたのに)とクリフ。
「構わない、何なら2人まとめてでも良いぞ」 メルデンは輿から空中に飛び出すと言った。
「ついて来い。 うるさいハエどもの邪魔が入らない所でやろう」そう言うとどんどん高度を上げた。 俺はその後を追った。
二人を見上げているクリフに、ザウローが言った。
「あんたはこっちだ。 名前を聞いておこう」
「クリフ・ラッシュです」
「ザウロー・シエンだ」 そう言うと、剣を抜いた。
高度1千メートルほどで、メルデンは止まった。 白いマントの下の銀の甲冑が、陽の光を浴びてまぶしいほどに輝いていた。
「行くぞ」 メルデンはクリスタルのような透明な剣を抜いた。 俺も腰から“青牙”を抜いて構えた。
メルデンは一気に間合いを詰めると、顔面めがけて打ち込んできた。 俺は体が反射的に動いて剣をかわすと、逆にメルデンの喉をめがけて剣を突いた。 メルデンはそれを剣ではねあげた。
「フン、大分ましになったようだな。 だがその程度では、神の代理人である私には勝てんぞ」 メルデンは更にスピードを上げた。 メルデンの連撃は剣筋が鋭く、口だけではなく実際に強かった。
(やはり強いな、アグレルの所での修行がなかったら、とっくにやられていただろう) 俺はそう思いながらも、不思議と気持ちは落ち着いていた。 それには剣のせいもあるかも知れないと思った。 剣が軽く感じられた。 雷光とも違うが、すごく扱いやすかったのだ。
空中を飛び回りながら、二人の戦いは続いた。 下から見上げたら、何が行なわれているのか分からなかっただろう。 10分ほど剣での戦いが続いたが、決着はつかなかった。 だが次第に俺が押していることは明らかだった。 メルデンの体には無数の細かな傷がついて、白いマントに赤いまだらができていた。
メルデンは苛立ちを隠せなかった。 剣での決着が難しいと判断すると剣を収めた。 そして両手を突き出すと、掌から赤い小さな火球を続けざまに放った。 俺は半分はかわし、かわしきれないのはシールドで防いだ。 それた火球は砲弾のように地面まで届き、戦場や山に幾つもの直径10メートルほどの穴を開けた。 下にいた両軍の兵達も驚いて、上空を見上げた。
「チッ、ならばこれはどうだ」 メルデンは顔の前で掌を合わせると、呪文をとなえながらその手を左右に開いた。 そうすると俺の周りに12体の鎧の彫像のような物体が現れた。 その赤い目が大きく輝きを増すと、一斉に赤いビームを放出した。 俺はとっさに体を球体のシールドで防いだ。 無数の赤いビームはシールドで反射された。 俺は、攻撃がやむとそれらに向けて剣を横になぎ払った。 すると青い剣の剣先から、三日月型の青い光が無数に飛び出した。 その光は甲冑の彫像を次々と切り裂いた。 切り裂かれた彫像は次々と消えていった。
(何、こんな使い方が出来るのか) 剣の能力に俺自身が驚いた。
俺はメルデンに向けて剣をなぎ払った。 再び青い光が無数に飛び出し、様々な軌道でメルデンに襲いかかった。 メルデンはシールドで防いだがいくつかは防ぎきれず体に突き刺さった。
「グハッ!」 メルデンの口から血が吐き出された。 俺はその隙を見逃さなかった。 一瞬で距離を詰めると、右の拳でメルデンの顔面を殴り倒した。 メルデンは白目をむいて気を失うと、そのまま落下していった。




