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22-4 裏の裏(2)

 ブラス・ソーエンは早朝の山の斜面を登っていた。 メルデン王と同日、王都を発した2万の兵は、黄のレギオンの支援のためという名目で、東に向っていた。 3日目に急に道を変え、密かに南下すると、ブラブ山脈へ向った。 昨日、ターニャと連絡を取り、予定通り明日総攻撃を開始することを確認した。 そして今朝早朝に、尾根を超える予定だったのだ。 2万の兵は山越えのため装備は軽装にしていた。 一列になって木の生い茂った道とは言えぬような道を行軍していた。 この山の向こう側にいるであろう、敵の背後を突くのが目的だった。


 アビエルが尾根から、白い兵達がアリの行列のように山の斜面をつづら折りに登ってくる様子を眺めていた。


 「ズバック、敵の兵を確認した。 予定通りにやるぞ」 アビエルは隣にいた4本腕を持つ体が青い男に言った。

「了解しました、アビエル様」 男はそう言うと、腰から下げた角笛を取りだし“プオーーー”と吹いた。


 すると、それを合図に白い兵達の両側の藪や岩陰から、一斉に異形のアデル族が様々な武器を手に兵達に襲いかかった。 驚いた兵達に両側から斬りかかり、一撃を加えるとアデル族の兵達はお互いに交差し反対側の藪に消えて行った。 アデル族はそれを、斜面を降りながら何度も繰り返した。 ブラスの兵達は、反撃する間もなかった。 更にその上にいた別の者が、討ち漏した兵に攻撃を加えるのだった。


 行軍の真ん中辺りにいたブラスは、その光景に激怒した。

(謀られたか)

「広めの所に固まれ、お互いに背中を守るのだ」 ブラスは叫んだ。


 アビエルは銀の甲冑に身を包んだ将軍らしき男を見つけた。

(あの男が、この軍の指揮官だな)

「ガル、アイツをとりにいくよ」 アビエルは隣に座っていた灰色の狼のような巨大な魔獣の背中をポンとたたいた。 「ガゥ」と魔獣は返事をした。 アビエルは剣を抜くと、ガルの背中にまたがった。 灰色の魔獣は風のように軽やかに斜面を駆け下りた。


 ブラスは山の上から斜面を駆け下りてくる、魔獣に乗った女に気付いた。

(俺を狙っているのか? 良かろう、このままでは気が済まぬ) ブラスは剣を抜いた。


 ガルはブラスの手前で急停止した。 アビエルは飛び出すようにその勢いのまま、ブラスに斬りかかった。 ブラスはその剣を受け流し、アビエルの背中に斬りつけた。 アビエルはそのまま前方に転がって剣をかわすと素早く立ち上がった。


 ブラスの剣が赤い光を帯び始めた。 そしてアビエルに向って振りかぶった。

(チッ、まずい) アビエルは右手を突き出すと掌から紫色の霧のような物が噴き出し、ブラスを包んだ。


 ブラスは、周りが霧に覆われ何も見えなくなった。 しばらくすると、周りから声が聞こえ、地面から次々と死体が湧き上がってきた。 それらは過去にブラスが倒した者達だった。 それらはブラスにすがりつくように近づいて来た。

「ウワーッ! 来るな!」 ブラスは叫びながら剣を闇雲に振り回した。


 しばらくブラスは夢中で死人達を斬りつけていたが、やがて全ての死人を切り伏せた。 肩で息をしながら呼吸を整えていると、耳元で女の声がした。

「もう大丈夫。 その者達が出てくることはないよ。 だからあなたも安心してお休み」 それはブラスの後ろからささやくアビエルの声だった。 そしてその時、ブラスの胸からは剣が甲冑ごと突き抜けていた。 ブラスはそのまま絶命した。


 その後、指揮官を失った白い兵達がいる斜面は、アデル族の狩り場と化した。


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