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22-3 裏の裏(1)

 アンゲルの率いる2万の軍勢は、ガレジオン山脈の西側の斜面の山あいに潜んでいた。 王都を出て南西に向い10日目の夜に街道をはずれて南に向ったのだ。 それから10日間出来るだけ街道は避け、やむを得ず村の近くを通るときには夜間を利用し極力人目につかないように、行軍を行なったのだった。 明日は約束の日だ。 ターニャからは明日予定通り、開戦するという連絡があった。 東の斜面には敵の軍勢が伏兵として配置されるに違いない。 アンゲルは翌朝、尾根を超えて敵の背後を突き、敵の裏をかくつもりだった。


 アンゲルは兵達に今夜は火を使わせなかった。 煙が東側に流れて、気付かれる危険を冒したくなかったのだ。

(きっと明日はうまくいく。 この前の借りは返してやる) アンゲルは思った。 その日は早めに兵達を休ませた。 明日は早朝に起きて尾根を超えるつもりだったからである。


 翌日の未明、兵達の眠りが最も深い頃、それは起こった。 水晶の白い兵達が狭い山あいの中で固まって寝ているところへ、無数の矢が一斉に打ち込まれたのだった。 わき起る兵達の悲鳴。 まだ朝日が昇らない暗闇の中で兵達が逃げ惑った。


 攻めていたのは、アドルが率いる3千のマブル族だった。 彼らは夜目が利くので、暗がりの中での攻撃でも問題無かった。

(ユウキ殿の読み通りだったな) アドルは前の作戦会議の後、ユウキに呼ばれて今回の事態の予測を聞いており、事前にこの辺りに潜伏していたのだった。 マブル族は水晶の兵を囲むように斜面の上に兵が位置取りし、上から次々と矢を射かけた。 紫の兵達は、暗がりの中で逃げ場を失い、お互いにぶつかり合って更に混乱をきたした。 2万の大軍がいてもこの地形では、数の多さがかえってあだとなった。


「クソッ、読まれていたのか。 いまいましい。 固まるな広がれ」 アンゲルは兵達に命じた。 暗闇に響き渡るのは、剣のぶつかり合う音、悲鳴、獣の咆哮。 降りることも出来ず、斜面を登り始めた兵達は、待ち構えたマブル族の兵に次々と討ち取られていった。


 西の空が薄紫に変わり、徐々に周りの様子が見えるようになってくると、アンゲルは驚いた。 周りの斜面には、おびただしい数の自分の兵が倒れていた。

 アンゲルは斜面の一番上で、周りに声をかけて指示している虎の獣人を見つけた。

(アイツが指揮官か。 奴だけでも仕留めなければ) アンゲルは剣を抜くと、斜面とは思えない速度で上っていった。


 アドルの方も黄色の甲冑に身を包んだ将軍と思える人物が、斜面をすごい勢いで上ってくるのを見つけた。

(俺とサシで決着を着けようというのか? いいだろう) アドルも剣を抜いた。

 アドルは剣を両手で振りかぶると、そのまま一気にアンゲルの所まで飛び降りた。 そしてそのまま剣をアンゲルの脳天めがけて叩きつけた。 普通の兵士だったら、そのまま真っ二つに切り裂かれていただろう。 しかしアンゲルもサムライである。 アドルの剛剣を難なく受け止めると、脇に弾きとばしたのだった。


 周りがどんどん明るくなる中、足場の悪い斜面で、二人の激しい戦いは続いた。 剣での戦いではアンゲルの方が上手で、アドルは次第に押されていた。 アドルがアンゲルの胴を突いた時、踏み込んだ右足の地面が崩れ、意識がそちらに一瞬それた瞬間、アンゲルに剣を飛ばされてしまった。

(しまった!)


 アンゲルはその隙を見逃さず、すかさず剣でアドルの腹を突いてきた。

(もらった) アンゲルは勝利を確信した。

 アドルは体を半身開いて剣先をギリギリでかわすと、その剣を肘と膝で叩き折った。 そしてそのまま前に出ると、驚いた顔をしたアンゲルを殴り倒した。

 アンゲルは右手を伸ばすと、炎を噴き出しアドルに向けた。 アドルはその炎をかわすと、青い細かな稲妻をまとった右腕をアンゲルの甲冑の上から叩きつけた。 強烈な雷撃がアンゲルの全身を襲い、アンゲルはそのまま絶命した。


「アンゲル様が討たれた!」 兵達の中に悲鳴のように声が響いた。 残った兵達は、一斉に斜面を降りはじめ、我先に逃げ出した。 マブル族は斜面の上から追撃を開始した。


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