22-1 水晶の企み
水晶の王都、クリストア
メルデン王は苛立っていた。
「何だと、黄のレギオンが援兵を断ってきたと言うのか」 メルデン王の顔は右半分に赤く火傷の跡が残っていた。 そのほほをヒクつかせながら言った。 先の緑のレギオンとの戦いで、グレンの炎を受けて火傷を負ったのだった。
「はい、兵力の整備中であることと、赤や銀のレギオンの侵攻がいつ行なわれてもおかしくない状況なので、出兵する余裕がないとのことです」とアンゲル。
「儂をなめているのか? 使えぬ奴らだ。 まあ良い、ならば我らだけで攻めるだけだ。 ターニャ、策を述べよ」
「はい、まずメルデン様が率いる主軍8万が、ヤール草原を進みオーリンの森に向けて進軍いたします。 恐らく緑のレギオンは前回と同様に、ガレジオン山脈とブラブ山脈の間で我らを迎え討とうするでしょう。 当然、両山脈の山には伏兵を隠し挟撃してくると考えます。 そこで我々は2つの別動隊各2万を密かに潜行させ山脈の裏から、これらの伏兵部隊を叩きます。 これらの部隊が壊滅すれば、主軍が敵の正面軍に敗れることは無いでしょう」 ターニャは地図上を指し示しながら説明した。 ターニャは一番若いが、その明晰な頭脳と戦略に通じていることからサムライに抜擢されていた。
「敵の兵力はどれぐらいになる」とメルデン。
おそらくは多くても5万程度かと思われます」
「別動隊だが、2万ともなると敵に気取られると思うが」 もう一人のサムライのブラスが言った。
「その可能性はあります。 ですので、一隊は『政情不安定なボスリア国境付近で警戒にあたる』、もう一隊は『黄のレギオンとの合同演習に向う』という名目で途中までそちらへ向ってもらいます。 そして途中から道を変え、夜間早朝などを利用して、約束の日時までに予定地点に急行していただきます」
「なるほど」とブラス。
「それだけで大丈夫か。 奴らを甘く見ると痛い目にあうぞ」とアンゲル。
「それは心配するな。 とっておきの手を考えてある。 今回は必ず勝つ、奴らはここで潰しておかなければならない」とメルデン。
「それではこれで進めると言うことでよろしいですか」とターニャ。
「良いだろう。 準備ができ次第、兵を出発させろ」
「承知いたしました」とターニャ。
10日後、緑のレーギア
「水晶のレギオンが攻めて来るぞ」 ユウキが部屋に入るなり言った。
「何だって! 今は銀や橙とも微妙な関係なのに、なぜ今なんだよ」と俺がぼやいた。
「それで、皆を集めるか?」
「いや、まだ良い。 少し作戦を練りたい。 それがある程度固まってからで良い」
「兵数は?」
「8万だという話だ」
「前回より多いじゃないか。 それに前と同じ作戦は通用しないだろう」
「そうだな。 スウゲンさんを呼んでもらえないか。 セシウスさんとトウリンさんの4人で作戦を検討したい」
「分かった。 だが、どうして西が今非常に不安定なこの時期に出兵してくるんだ?」
「メルデン王にすれば、逆に今しかないと読んだのだろう」
「なぜ?」
「西が紫のレギオンの支配体制が確立されれば、次は水晶のレギオンが狙われるかも知れないと考えたのだろう。 だからその前にとっとと目障りな緑のレギオンを倒して、中央の守りを万全にしたいのだろう」
「なるほど。 だがこちらもとっとと倒される訳にはいかない」
俺がスウゲンを連れて来ると、4人は早速作戦の検討に入った。