21-7 スフィン王の願い
アテン島が落ちてから1カ月ほど経った頃、俺は藍のレーギアにいた。 シュエンが執務室に入って来るなり言った。
「カケル様、アテン島のスフィン王の一行がお見えになりました」
「そうか、では迎えに出なくては」 そう言うと俺は立ち上がった。
スフィン王の一行は、王とエルク王子、他に側近の者など10名が随行していた。 俺はレーギアの建物の前で出迎えた。 王と王子は俺に気付くと、驚いたような表情をすると、少し早足になった。
「カケル王、わざわざ出迎えいただき、恐縮です」とスフィン王は笑顔で言った。
「いえいえ、島の方は落ち着きましたか」
「おかげさまで、色々ご配慮いただき、何と感謝申し上げて良いかわかりません」
アテン島は結局、バレンの南でレンガ島の西の海で固定された。 俺はスウゲン達に、10隻の中古の船を供与したり、港の開設のアドバイス等色々相談にのってやってくれと指示したのだった。
王の一行を応接の間に通すと、俺はスフィン王と向かい合って座った。 こちらはスウゲンが同席した。
「本日は島の件でのお礼は勿論ですが、実はお願いがあってやって参りました」 スフィン王は真顔になった。 スウゲンの目が王の考えを探ろうとするかのように、細くなった。
「何でしょうか。 我々に出来ることでしたら、できる限りの協力はいたしましょう」
「ありがとうございます。 実は獣人族の問題です」
「獣人族? 橙のレギオンが何か言ってきたのですか」
「直接的にはまだ言ってきてはおりませんが、獣人族の船が多数頻繁に島の周りに現れ、島に上陸しようとしています。 先日は上陸してきた獣人達と武力衝突もあり、双方に死人も出ています」
「橙のレギオンが狙っていると言うことですか?」
「そう思います」とスフィン王。
「あの位置は橙のレギオンのテリトリーの沖ですからね。 支配下に置きたいと考えているのかも知れませんね」とスウゲン。
(同盟を結びたいと言うことかな)
「それで、我々も色々と協議したのですが、我々をカケル王の麾下に入れていただきたいのです」とスフィン王。
「何ですと」 俺はスウゲンの顔を見た。 スウゲンは驚いてはいなかったが、微妙な顔をしていた。
「今や12王はお互いに戦いを繰り返し、戦乱の時代となっています。 我らのような小国はもはや単独では生き残れません。 どうせいずれかの支配下に入るのならば、最後まで我らのことに尽力していただいたカケル王に、全てを委ねたいと考えたのです」
「そうですか、状況は分かりました。 ですが、今この場で即答は出来かねます。 私が今までこうしてやってこられたのは、私を支えてくれる優秀な部下達の知恵と助言があったからです。 私の独断ではないのです」 その言葉を聞いて、同行の者達に少し驚きの表情が見られた
「分かりました。 良いご返答をお待ちいたします」とスフィン王。
「一つお伺いいたします。 銀のレギオンからは何か言ってきましたか?」とスウゲン。
「まだ何も言ってはきていません。 しかしいずれ違約金を請求してくるかも知れませんな」
「分かりました」
スフィン王達がくつろいでいる間に、俺は急遽セシウス、トウリン、ユウキ、ミーアイなど主な者を呼んで、この件について協議した。
「良いことでは無いのか?」とセシウス。
「私もそう思いますが・・・」とミーアイ。
「事はそう単純ではありませんよ。 まず橙のレギオンですが、既にアテン島は自分達の物だと思っているでしょう。 そこを横取りされたと思い、橙のレギオンとの戦いは必至でしょう。 次に銀のレギオンですが、青の件、黒の件と2度も煮え湯を飲まされたと思っているでしょうから、今度は絶対に引かないでしょう。 その違約金も法外な額を要求してくるでしょう。 そして支払いを拒めば、それを口実に侵攻に移ると思われます」とユウキ。
「私も同感です」とスウゲン。
「じゃあ、断るのか?」とバウロ。
「それも出来ません。 断れば、アテン島は橙か銀の支配下に入るしかなくなるでしょう。 そうなればいつも背後に敵がいるようなものです」とスウゲン。
「川で溺れている魔獣の子を助けるようなものですね」とトウリン。
「助けても、助けなくても禍がやってくるということですね」とリンエイ。
「スフィン王はさすがに老獪ですね。 こうなることも見越して、我々に委ねたのでしょう」とスウゲン。
「分かりました。 スフィン王の申し出を受けましょう。 アテン島の人々を見捨てる訳にはいきません。 戦いになるのはやむを得ません。 また一緒に対応策を考えましょう」と俺。
「承知いたしました」 皆が同時に応えた。
早速、俺はスフィン王に承諾することを伝えた。 王や一行は喜んだ。
その夜は一行を歓迎する宴が開かれた。
翌日、スフィン王は、カケル王に対して臣従することを誓った。 実質的にはスフィン王は高齢のため、エルク王子がサムライになったのだった。




