21-6 レッドローズ(3)
3週間も経とうとする頃、アンドレアスとケビンは用心棒というか、傭兵もどきの事をしていた。 ボスリアへ向けての難民は益々増えていた。 アンドレアス達は難民の集団の中で、金持ちや商人などからいくらかの金をもらい、その集団が安全と思われる場所まで同行するのだった。 これまで大小10回ほどの襲撃から難民達を守った。 更にアンドレアスに共感する元兵士や若者が仲間に志願して、今や12人の集団になっていた。 そのような者達が仲間になるのをアンドレアスは断ったが、ケビンがどんどん受け入れてしまったのだった。
「ケビン、力のない者を入れれば足手まといになる。 私は知らんぞ、お前が面倒見ろ」
「あんた、過去に大量の仲間を失ったことがあるんじゃないか? だから仲間を増やすのに臆病になっているんじゃないのか」とケビン。
「・・・・」
「ミネルバ、今のままじゃ中途半端だ。 助けられる人も限られる。 一度始めたからには覚悟を決めろ」 ケビンの言うことは正論だった。
「そうだな、分かった」
「じゃあ、俺達の団の名前を決めようぜ」
アンドレアスには頭に浮かんだ名前があった。 だがその名を口にするのはためらわれた。 だが少し考えてから言った。
「レッドローズだ」
「えっ、オイオイ。 いくら名前にあやかりたいからって、それはダメだ」
「何故だ」
「レッドローズは今や伝説だ。 千人足らずの傭兵団だったが、参戦した戦では勝敗を左右する重要な局面でめざましい働きをして、戦局を覆していった。 この周辺国の軍の兵達は、レッドローズが出てくると震え上がったという話だ」
アンドレアスは口元で笑った。
「その傭兵団の団長は若い女で、顔に傷があったと言う・・・・」 ケビンはアンドレアスの顔を見つめた。 ケビンの頭にある考えが浮かんだ。
「もしかして、あんた・・・。 そうなのか?」
「・・・・・」
「ははは、そう言うことか。 どうりでメチャクチャ強いはずだ。 そう言うことなら、レッドローズはあんたにしか名乗れない」
2週間後
アンドレアス達は、護衛中の難民の集団と野営の準備をしていた。 この時にはアンドレアスの一団は20人を超えていた。 その時、仲間の一人が走ってきた。
「ミネルバ、軍隊が近づいて来る」
「どこの軍だ」
「装備がバラバラだ、正規軍ではないと思う。 200人ぐらいいるぞ」
「旗からすると、傭兵団“冥府の使者”だな。 数は多くは無いが精兵ばかりの団だ。 たしか団長はグラント・ゲーツだったか」とケビン。
「グラントだと・・・」
その旗は赤地に白いドクロ、そのドクロに蛇が絡みついていた。 その兵達はいずれも屈強な歴戦の戦士という風貌だった。 一団の中から団長と思われる、白い無精髭を生やした中年の男が、副官と思われる男と共にアンドレアスの方へ歩いてきた。
「お前達か、レッドローズを名のっているのは。 悪いことは言わない、すぐに変えろ。 その名は関係無い者が安易に使って良い名ではない」 団長と思われる男は、ケビンに向って言った。 ケビンの側で背を向けていたアンドレアスは、振り返ると言った。
「相変わらず趣味が悪いな、グラント」 男はアンドレアスの顔を見ると、驚きのあまり口を開け、しばらく言葉が出なかった。
「元気そうだな」 アンドレアスは笑った。
「アンドレアス・・・」 アンドレアスは唇に指を当てた。
「その名は言わないでくれ、今はミネルバ・ローエンだ」
「どうしてここに。 あんたは緑のレギオンのサムライになったはずだ」
「ある人を守るために、王を裏切ってしまった。 罰としてレギオンを追放になった」
「そうか、ならばまた昔のようにやろう。 あんたがレッドローズを名のるのなら異論はない」
「それで良いのか? お前にはこれまで苦楽を共にしてきた部下と旗があるだろう」
「ああ、だがレッドローズには、それ以上の思い入れがある。 それに不服を申し立てる奴とは袂を分かつ」とグラントはキッパリ言った。 それを見ていた副官は驚いた。
グラントが部下に説明のために戻って行く途中、副官がグラントに言い寄った。
「俺は納得出来ない。 レッドローズが凄い傭兵団だったことは、あんたの話で知っていますよ。 だがレッドローズが復活するのなら、あんたが団長でしょう」
それを聞いてグラントは笑った。
「お前はレッドローズを分かっていない。 あのアンドレアス自身がレッドローズなのだ。 だから、10年前に解散したときに、彼女について行かなかった者達もレッドローズを名のる事は無かった」
「あの女がどれだけの者だというのですか」
「ははは、彼女一人で我々は全滅させられる」
「冗談でしょう?」
「本当だ」
こうして、20数人の傭兵団、レッドローズは、一夜にして200人以上の所帯になった。