20-13 困難な作戦(3)
ドラゴン達が島を引きはじめてから、2時間ほど経ったころ、ユウキが作戦の終了をグレンに伝えた。 グレンは作戦の終了を伝える咆哮をあげた。 ドラゴン達は鋼鉄の輪から首を抜き、次々と四方へ飛び去って行った。
「軌道の修正は完了しました。 これでアテン島は進路をより南にとり海に向うはずです」 ユウキはスフィン王と俺に報告した。
「ご苦労さまでした」とスフィン王。
「それで、海に着水するのはいつになるのだ」と俺。
「明日の午後になる見込みです」
「ではもう大丈夫なのだな」とスフィン王。
「まだ安心は出来ません。 夜に気流が大きく変わって流されれば、状況はまた変わります。 まだ予断は許しません」とユウキ。
「何だと、もうドラゴン達は帰ってしまったぞ。 どうするのだ」とスフィン。
「残念ながら手立てはありません」とユウキ。
「後は祈るしかないと言うのか」
その夜は、アテンの多くの島民達は眠ることが出来なかった。
一夜明けると、ユウキとブランがスフィン王と俺の前にやってきた。
「陛下、悪いお知らせです」とブランが青い顔をしながら言った。
「どうしたのだ」とスフィン。
「昨夜、西からの風が強くなり、軌道がより南側にずれ込みました」
「するとどうなるのだ」
「陸から離れすぎて、遠浅の海域を外れます。 つまり沈没すると言うことです」とユウキ。
「なんと・・・」
「何か出来ることはないのか?」と俺。
「ございません」とユウキ。
「そうか」 スフィン王はそう言うと、頭を抱えた。
(本当にもうやれることは無いのか? 東からの強い風があれば修正出来るのではないのか。 まてよ) 俺はある考えが頭に浮かんだ。 俺はユウキを呼んで考えを伝えた。
「そんな事が出来るのか?」
「分からない、だが出来るのではないかと思う」
「それなら可能性はある」
「分かった。 ではやろう、これまでの皆の努力を無駄にしたくない」 そう言うと俺は立ち上がり、部屋を出ていった。 呆気にとられるスフィン王にユウキが説明した。
俺はゲートを使い、ファウラとミーアイを呼んだ。 そしてこれからやろうとしていることを説明した。
「ファウラ、どう思う、出来ると思うか」
「うーん、たぶん出来るとは思います。 ですがとんでもない量のレムが必要になると思います。 カケル様のお体が心配です」とファウラ。
「それにはミーアイに協力してもらう。 いいかい?」
「もちろんですわ」とミーアイ。
「それじゃあ、時間が無い。 早速やろう」
俺達は飛空船に乗ると、島の東の海上に出た。 そして飛空船の甲板で俺とファウラ、ミーアイは輪を作るように手を繋いだ。
ファウラは呪文を唱え始めた。 俺は頭の中に台風をイメージした。 台風は暖められた空気が渦を巻いているが、今回は純粋に風の渦をイメージしているので台風とも違う、かといって竜巻では局所的に強い渦になるので、竜巻でもダメだった。 直径が大きく、力強く継続的に吹く巨大な風の渦、それが理想だった。
ファウラが呪文を唱え始めてからしばらくすると、風が吹き始めた。 そしてそれは次第に強くなると共に、その渦の中心である飛空船の周りは逆に無風となっていった。 風の渦は直径が数キロの及ぶ巨大なものになっていった。
「ユウキ、島の様子はどうだ?」 俺は念話で呼びかけた。
「風が強くなっている。 だがまだ島の軌道が変わった様子は見えない」
「分かった」
それから1時間後
「どうだ?」
「島が少しずつ西に動いている。 遠浅の海域に入りつつあるがもう少しだ」とユウキ。
「もうファウラが限界だ。 長くは持たない」
「もう少し、頑張ってくれ」
その時、島の端に5頭のドラゴンが現れた。 5頭のドラゴンは鋼鉄の輪に首を通すと、鎖を引きはじめた。 グレンとグレンの側近になる5族の若きリーダー達だった。 彼らは結果を見届けるため、島に残っていたのだった。 グレンと4頭のドラゴンは必死に羽ばたき鎖を引いた。 グレンは大きな咆哮をあげた。
ファウラがめまいを起こし、倒れそうになった。 ミーアイもフラついてきたため、俺は終了させた。 風は急速に弱まって、辺りは静かな海に戻った。
「もうダメだ。 結果はどうだ?」
「オーケーだ。 グレン達も協力してくれたので、完全に遠浅の部分に乗った。 もう一部は着水を始めている」とユウキ。
「良かった。 それじゃあ俺達も戻る」
俺達がアテン島に戻った時には、島の下の岩盤層のほとんどは海に入っていた。地鳴りと地震のような揺れが起こると、島は動かなくなった。
「陛下、成功です。 アテン島は助かったのです」とブラン。
「良かった。 これもすべてカケル王はじめ皆さんのおかげです」とスフィン王。
「海底と島がなじむまでしばらくかかると思いますが、たぶんこれで大丈夫でしょう」とユウキ。
「やったー!」とファウラとミーアイは抱き合って喜んだ。
島に住む人々も歓喜に沸いた。 王都はまるで祭りのような騒ぎだった。 人々は口々に「スフィン王、バンザイ。 カケル王バンザイ」と叫んでいた。




