20-10 説得
俺は王の部屋に通された。 大きな部屋では無く、丸い華美ではない部屋だった。 正面の椅子に老齢の白髪の男が座っていた。 隣には細身の中年の男と更にその隣には赤い髪の若い女が立っていた。 若い女の背中には翼が無く、見たことがある軍服を着ていた。
(アレは確か銀のレギオンの軍服だ。 やはりそう言うことなのだ) 俺が女を見ていると、向こうもこちらを睨んできた。
「全く強引なお方だ。 緑と藍の王よ。 まあ掛けられよ、私がスフィン・ソーブルだ」 そう言うと、王の前に用意された椅子を差し招いた。
「カケル・ツクモです。 お返しいたしますよ、全く強情なお方だ。 話しぐらい聞いても良いでしょう」 そう言いながら椅子に座った。
「それで、お話とは何でしょう。 もう事ここに至っては話すことなど無いでしょう」
「二人だけで話したいのですが」 俺は銀のレギオンの女を見た。
「スフィン王、それは危険です。 二人になった途端に何をしでかすか分かりません」と女が言った。
「構わない、話してくれ」とスフィン。
「スフィン王、こんな不毛な戦いはもう止めましょう」
「ならば降伏して、島を明け渡しなさい。 元々あの島は我らの物だ。 元の所有者に返せと言っているだけだ」
「無茶をおっしゃる。 千年も前の事を今頃言ってもどうしようも無いでしょう。 あの島に住む何十万人もの人達にどうしろとおっしゃるのですか」
「千年だろうと1万年だろうとあの島は我々エルビン族の物だ。 我々にはあの島しか無い。 あの島に住んでいる人族は元々地上に住んでいた人々だ、地上に帰れば良い」
「あなた方には、この島があるではありませんか」
スフィン王は俺の目を見つめていた後に言った。
「もう知っているのだろう? この島が落下していることを。 我々こそどうしろと言うのだ」
「今後もこの島に住み続ける手段があるとしたら、どうされますか?」
「何だと!」 スフィン王の目が見開かれた。
「嘘です! だまされてはいけません」と女が口を入れた。
「部外者は黙っていろ!」 俺は思わず怒鳴ってしまった。
「続けてくれ」とスフィン。
「この島の落下を制御して、大陸の南の遠浅の海に着水させます」
「何だと! 無理だ、そんな事はできない。 我々とてそんな事ぐらい考えなかったとでも思うのか。 島の方向を変える手段はどうすると言うのだ」
「ドラゴンの力を借ります」
「ハッハッハッ、馬脚を現わしましたね。 ドラゴンが人間に力を貸すはずがありません。 仮に力を借りる事が出来たとして、1頭2頭のドラゴンにこの島を動かすことなど出来ません」と女。
「100頭です。 竜王が100頭近くのドラゴンを集めます」
「何だと!」 スフィンが隣に立つ男の顔を見た。
「確かに、そんな事が本当に可能でしたら、島を動かすことが出来るかも知れません」 男がスフィンに言った。
「そんなの大ボラです。 なぜ竜王があなたに力を貸すのですか」と女。
「竜王は私の友ですから。 1カ月後に100頭近くのドラゴンが集結します」
「全部デタラメです」
「うるさい、黙っておれ」とスフィンが女に怒鳴った。
「カケル王よ、それは本当の事なのだな」とスフィン。
「本当です。 スフィン王、このまま戦いを続けても結果は悲惨なものにしかなりません。 我々も最大限のご協力をいたしますので、戦いは止めてください」
スフィン王はしばらく目をつむって考えていたが、目を開けると言った。
「カケル王、分かりました。 我々はその案に賭けてみましょう」
「スフィン王、それでは約束が違います。 我々が貸与した飛空船、バズーカ砲、銃の代金6億クロンを払ってもらうことになりますよ」と女が叫んだ。
「黙れ! とっとと出ていけ」とスフィン。
「スフィン王、我々との約束を破れば、後々後悔することになりますよ」 女はそう言うと、俺を睨みつけた後、部屋を出ていった。
スフィン王は隣の男に命じた。
「至急、兵を退かせるのだ。 それからカケル王達をもてなす準備をするのだ」
「カケル王、具体的にどうするお考えか、もっとお話を伺いたいですな」 スフィン王は、俺が部屋に入った時とはうってかわり、笑顔になっていた。