20-9 天空の戦い(3)
飛空船が王宮の真上で止まると、俺は言った。
「いくぞ。 攻めにきた訳では無い、極力無駄な殺し合いは避けてくれ。 だが躊躇して自分が死ぬような事だけは避けてくれ」
「承知いたしました」と皆が応えた。
俺は甲板から飛び降りた。 高さは50メートルぐらいだった。 それにグレンが続いた。 ジュリアン達は、船から垂らしたロープで懸垂降下し、ロープの足りない部分は飛び降りた。 アドルとガロンは落下速度を十分に殺すことができず、ロープの意味がほとんど無かった。 勢いよくお盆の部分に着地すると、その部分がひび割れし陥没した。 二人とも掌が摩擦で火傷していた。
「アッチー!」とアドル。
「来るぞ! 気を抜くな!」とジュリアン。
建物の中から兵士が次々と出てきた。 更に俺達を追ってきた飛空船からも大量の兵士が飛び出してきたのだった。
俺達は中心の大きな建物へ向って歩いていた。 ジュリアン達が俺を取り囲むようにガードしながら進んで行った。
警備兵達が、剣を抜いて迫っていた。
ガロンが背中に担いでいた太い鉄の棒を抜くと、兵達に向って構えた。
「カケル様、ここはオレが押さえますので、進んでください」 そう言うと金棒を頭上で軽快に回した。 後ろからは飛空船から舞い降りた兵達が迫っていた。
「後ろは任せろ!」とアドル。
ガロンは前から迫る兵士を5人一度に金棒でなぎ払った。 後ろではアドルが同様に迫り来る兵士を次々と剣の平らな部分で、叩きのめしていた。 ジュリアンやエレイン達も、迫る兵士を極力殺さないようにしながら戦った。 しかし迫る兵士は数十人に及び、俺達は完全に囲まれてしまった。
俺はこのままではラチが空かないのと、アテンの兵達の分からず屋ぶりにまた怒りがこみ上げてきた。
「いい加減にしろ、分からず屋どもめ!」 俺は怒りの感情を一気に放出した。
アテンの兵士達は、俺の気に圧倒され体がフリーズした。 飛んでいる兵士も体が硬直して飛べなくなり、落下していった。
「武器を収めよ! 私は王と話をしに来ただけだ」
ようやく動けるようになった兵士達は、お互いに顔を見合わせた。
俺は前に歩き出した。 兵達は左右に開いて道を空けた。
「ダメだ! これから先には通さない」 声の主は藍色の輝く翼を持った、若いが身分の高いと思われる人物だった。 その男は剣を抜くと上段に構えた。
「カケル様、気を付けて! そいつはかなりの使い手ですよ」とエレイン。
俺の怒りはピークに達した。 俺は剣も抜かず、目の前の男を無視して歩いていった。 そして男が剣を振り下ろそうとした瞬間に、一気に加速すると次の瞬間には、俺は男のほほを右手で張り倒していた。 男はそのまま5メートルほど反対側にふきとび、兵達の塊にぶつかった。
(おっと、手加減したつもりだったが、少し強かったか)
周りの兵達は唖然として立ち尽くしていた。
「道を空けよ。 王のもとに案内してくれ。 信用出来ないならば武器は預けよう」 俺は前にいた指揮官と思われる兵にそう言うと、腰から剣をはずし渡した。 その指揮官は俺の剣を受け取ると言った。
「分かりました。 しかしお会いになられるのは、あなたお一人でお願いします」
「承知した」
「ではこちらへどうぞ」 俺は指揮官について建物の中に入った。
ジュリアン達は、何重にも兵に囲まれた状態で、建物の前で待つことになった。