20-7 ドラゴンの貸し
ユウキが俺とミーアイがいる部屋にやって来た。
「島を動かせる可能性が出てきた」
「どうするんだ?」
「この島は良く観察すると、ゆっくりと左回転している。 だからアテン島も同様と考えられる。 ならば島の先端に回転と同じ方向に力を加えれば、少ない力でも向きを変えられると思うんだ。 進行方向から1度でもずらすことが出来れば着地点は大分大きくずれ込むはずなんだ」
「なるほど」
「だがまだ問題が2つある。 一つはどうやってその力を加えるかと言うことだ。 少ない力とはいえとても巨大な力が必要だ。 それともう一つは、正確な軌道が分からないことだ。 GPSとスーパーコンピュータでもあれば正確な着地点が割り出せるのかも知れないがな。 だからどのタイミングでどれだけ動かせば良いのかが分からない」
「うーん、例えば俺とミーアイのレムで小さな台風を起こせないだろうか」
「それも一つの選択肢にはなる。 だが仮に台風を起こせたとして、それを制御出来るのかい?」
「うっ、それは何とも・・」 俺は言葉に詰まった。
そんな話をしていると、部屋にグレンが入って来た。 俺は何気なくグレンの姿を見ながら、ある考えがひらめいた。
「もし、巨大なドラゴンが何十頭もいたら、島を動かせるんじゃないか」
俺とユウキは同時にグレンの顔を見た。
「な、ボクがどうかした?」とグレン。
ドラゴンの島
俺とグレンはゲートを使って3頭の巨大なドラゴンの前に現れた。
「前竜王はどうされたのですか?」と俺。
「あれから10日ほどで亡くなられた」と赤いドラゴンが言った。
「急にどうしたのだ。 グレンバロウス、いや竜王よ」と青いドラゴン。
「カケルが、ボク達に頼み事があるそうです。 ボク一人では判断出来なかったので、ここに来ました」とグレン。
「頼み事とはなんだ。 人の王よ」と赤のドラゴン。
「天空島はご存知ですか?」
「空に浮かんでいる島のことだな、知っている」
「その天空島の一つが、今落ちつつあります。 そしてこのままでは島自体も、下の大地にも甚大な被害が及びます」
「それで」
「その島を何とか落下地点をずらして、遠浅の海に落としたいのです。 ですが巨大な島の軌道を僅かにずらすにも、とてつもなく大きな力が必要になります。 そこであなたたちに力を貸していただきたいのです」
「我らに島を引けというのか。 図に乗るな」 緑のドラゴンが言った。
「人の王よ、島がいずれ落ちるのは天の定めだ。 それがどこに落ちるかも天の思し召しだ。 それを人が自分の都合でどうにかしようなどとは、おこがましいことだ」と青のドラゴン。
「では、そのままなるように任せろと言うことですか。 災害が起きても何の対策も取らずにただ受け入れよと言うのですか。 冗談じゃ無い。 やれることが有るなら全てやって、あがいて、もがいて、それでもダメならまだ諦めがつくが、何もしないで諦めるのは怠慢なだけだ」
「人らしい考え方だな。 そう思うのならやってみるが良い、だがそれは我らには関係の無いことだ。 何故我らが手を貸さねばならぬのだ」と赤いドラゴン。
「あなた方にその力があると思うからです」
「仮にその力が有ったとしても、我々は力を貸さぬ。 我らには何の利点も無ければ、人族に力を貸す義理もない」と青のドラゴン。
「お願いします、力を貸してください。 確かに力を貸していただいても、今は何の見返りも有りません。 今回の件は私への貸しにしておいてくれませんか」
「貸しだと」と青のドラゴン。
「はい、私に何が出来るか分かりませんが、あなた方が何かの問題に直面したときには、必ずこの借りは返します」
「面白いことをいう。 だがそんな言葉を誰が信じるんだ」と緑のドラゴン。
「ボクが信じる」とグレン。 3頭のドラゴンはグレンの顔を見つめた。
「そうか、話は分かった。 さてグレンバロウス、どうするね。 竜王はお前だ」と赤いドラゴンがグレンに言った。
「ボクは出来るのならば、力を貸してやりたい。 このままでは多くの人々が死ぬ」
「では決まりだ。 この件は人の王よ、お前への貸しだ」
「ありがとうございます」
「では我らはどうすれば良い」
「どのくらいのドラゴンを集めることが出来ますか」
「100まではいかないと思うがそれに近い数は集まるだろう。 いつまでにどこに集めれば良い?」と赤のドラゴン。
「100ですか!」俺は驚いた。
「では、1カ月後にグラッツ山にではいかがですか」
「分かった。 竜王、あなたが念で全てのドラゴンに呼びかけるのだ」
「ボク、やり方が分からない」
「竜王の強い念は、ドラゴンにはどこにいても伝わります。 自分を信じなさい」
「分かった」 グレンはドラゴン達に集合するように念を送った。




