20-3 懸念
半月に1度、3つのレギオンのサムライが集まる合同会議が行なわれていた。 今回の会場は青のレーギアであった。 戦争などの緊急事態でも無ければ、議題は他のレギオンの動向などの情報共有と、経済問題、レギオンの抱える喫緊の課題についてだった。
「直近の最も大きな変化は、金のレギオンが紫のレギオンによって制圧されたと言うことです」 ユウキが説明した。
「では皇帝はどうなったのだ」と俺。
「殺害されたようです、紫のサムライによって。 そのサムライが金の12王になってレーギアを掌握したようです」
「ではもう金のレギオンは紫の支配下にあると言うことか」とバウロ。
「橙のレギオンはどうしているのだ。 狙った獲物を先に捕られて怒り心頭だろう」とセシウス。
「取りあえず静観しておるようですが、もちろんこのままとは考えにくいですね」
「それにしても金のレギオンは何十万もの兵がいたのだろう? 紫は幾らの兵力で攻めたのだ?」とアドル。
「3人のサムライが、6万の兵で攻めたとのことです」
「6万、たったの!」とアドル。
「アデル族の戦闘力をなめないでよ」とアビエルは少し誇らしげに言った。
「アデル族の軍勢が強かったのは間違いないようですが、それだけでは無かったようです。 皇帝サーウインは12王の盟約で封印されていた大量破壊兵器を使用して自滅したそうです」
「なんだそれ」とセシウス。
「その大量破壊兵器とはどのような物だったのですか」とトウリン。
「私も詳しくは分かりませんが、赤い巨大な光球が落ちてきて辺りを文字通り消滅させたと言うことです」
「なんと言うことだ、アレを使うとは愚かな事を・・・」とグレアム。
「それで、我々はどうするのですか」とミーアイ。
「とりあえず、成り行きを見守るしか無いでしょう。 周辺国がどうするのかとか、橙のレギオンがどう動くのかなど、まだ落ち着くまでは何が起こるか分かりません」とフィーゲル。
「それはその通りなのですが、一つ懸念されることがあります」とスウゲン。
「それは何ですか?」と俺。
「難民です。 橙の支配下に置かれたタイロンやアストリアでは、何十万という難民が発生しているとのことです。 それが帝国やボスリアに流れ込もうとしていたのですが、それがこのような状況ではそれも難しいでしょう。 新しい王の政策次第では帝国自体から大量の難民が発生する恐れがあります。 そうなればボスリアも受け入れを拒否するのは明白です」
「そうしたら難民はどうなるのですか」とリオナ。
「水晶のレギオンに流れ込むでしょう。 恐らく最悪は100万」とユウキ。
「その通りです。 ですが水晶の王は自国領に受け入れる条件として、改宗を求めるでしょう」とスウゲン。
「もし改宗に応じなかったら?」と俺。
「その者達は南下して来るでしょう」
(えっ、それってこっちに100万もの難民が押し寄せて来るってこと? それはマズイじゃないか)
「それは難民が大挙してこちらに流れ込んでくるということですね」と俺。
「そうです。 ですので、今から対応策を考えておく必要があると思います」とスウゲン。
「それではその場合、我々に何が出来るのかを各自考えてください。 彼らを見捨てる事は出来ないでしょう」
「第2の逃れの民ですね」とグレアム。
会議が終了した後、俺はレーギアに残った。 今日から3日間はこちらにいるからだ。 二人の居室に入ると、ミーアイは俺に話し始めた。
「まだ懸念とも言えない段階なので、会議では話しませんでしたが、実は気になる事があります」
「何ですか」
「カケル様は翼人をご存知でしょうか?」
「よくじん? いや、知らない」
「背中に大きな翼を持った人間です」
(えっ、それって天使のこと?)
「もしかして頭の上に丸い輪があるのかい?」
「えっ、そんな物はございませんが、それが何か」
「いや、いいんだ。 続けて」
「実は数日前、この島に現れたようなのです」
「その翼人は何が問題なのですか?」
「カケル様、この天空島の伝承をご存知でしょうか」
俺には翼人から天空島に話が跳んだりする、ミーアイの意図が分からないと思いながらも付き合った。
「確か、初代の王がこの島を発見して本拠地に定め、その後地上から人々が移り住み現在に至っているというものじゃなかったかな」
「その通りです。 ですが、天空島の伝承にはもう一つあるのです。 ここでは表に出ないもう一つの話が」
「それは私が聞いても大丈夫なのでしょうか」
「カケル様には、聞いておいていただかねばなりません」 そう言うと、大きく息をはいてから話し始めた。
「実はこの島は、昔はもっと大きな島でアテンという名だったそうです。 初代のレイリー王がこの天空島を発見した時には、多くの翼人が住んでいました。 レイリー王は翼人達に自分に従うように言いましたが、翼人達の王は従わず戦いになったそうです。 さすがにレイリー王は翼人を滅ぼす気にはなれず、怒りにまかせ島を割ってしまったそうです。 そして多くの翼人が住んでいたアテンと分かれたこちら側にレイリー王はレーギアを定めたのです」
「なるほど、それでレイリー王としてはあまり自慢できた話ではないので、この話は表から抹殺したのですね」
「そうです」
「それで、アテン島はどうなったのですか」
「今もこの島と同じように空を移動しているはずです。 この島も意図的に向きを変える事は出来ません。 ですが二つの島はある一定の距離以上は近づくことはないのです」
(それって、磁石の同極どうしが反発するみたいなものなのだろうか)
「翼人との交流は?」
「ありませんでした」
「ずっと交流のなかった翼人が、突然この島に現れた」
「そうです。 アテン島に何か異変が起きていて、今彼らはこちらに非常に関心を持っているのではないかと思うのです」
「なるほど、分かりました。 しかしまだ情報不足ですね。 注意しておいてください」
「分かりました」