19-3 帝都決戦
北部方面軍が戦いで負けた事は、その日のうちに帝都に知らされた。
「何だと、ロンウエル達が負けたと言うのか」 サーウインは驚いた。
「はい、連合軍は壊滅、ロンウエル将軍とアラン将軍は討ち死にとのことです」
「あの二人を討ち取るほどの者がおるというのか。 それで敵はどうなった」
「敵軍は大きな損害はないようで、6万近くの軍勢を維持しながらこちらに向っております。 5日の後には郊外に姿を現わすと思われます」
「この帝都にはどれぐらいの兵がいるのだ」
「帝都守備隊、約2万です」
「すぐに南の国境近くにいる軍を呼び戻せ、全軍だ。 それからボスリアにも援軍を出すように伝えるのだ」
「かしこまりました」
5日後の夕方
帝都から北に10キロほどのところに、紫の軍勢約6万が現れた。
帝都の城壁の北側3キロの地点には、10万の帝国軍と1万のボスリア王国軍が陣を構えていた。
「サーウイン様、敵が現れました」 紺の鎧を身につけた、ガッシリした男が皇帝に報告した。
「そうか。 カーグよ、明日は余が直々に、敵に鉄槌をくだす。 そうしたら・・・」 サーウインは明日の作戦を将軍に伝えた。
「サーウイン様、アレをお使いになられるのですか。 しかしアレは初代王の時に封印されたはずです」
「昨年の12王会議で、不戦の盟約は破棄された。 その時にアレ等の封印も解かれたと解釈している。 もうきれい事では済まないところまで来ているのだ。 カーグよ、最後はそなたとトエルで仕上げをするのだ」
「はっ、かしこまりました」
翌日の昼前に、2キロほどの距離を空けて両軍は睨み合った。
サーウインは本陣に10メートルほどの高さの櫓を組ませ、その上で精神を集中させていた。 両腕には様々な色の石が付いた秘宝の腕輪を着けていた。 この腕輪が使われるのは約千年ぶりである。
サーウインは胸の位置で両方の掌を合わせ、呪文を唱えた。 そして掌の間を少しずつ開いた。 腕輪に細かな放電が走ると、掌の間に赤い光の玉ができた。 玉の中では無数の放電が起こっていた。
赤い光の玉は次第に大きくなると、サーウインの頭上に浮かび上がった。 赤い球体はどんどん大きくなりながら上空へと上っていった。
(この“神威”という技は使った事がない。 あの敵を滅ぼすにはどれ位大きくすれば良いのだろう。 失敗は許されない。 多少ずれたとしても良いように出来るだけ大きくした方が良いだろう) サーウインは更に赤い光球にレムを注ぎ込んだ。
紫の陣
「何だ、あの赤い玉は?」とグレイガ。
「ヤバそうな気がビンビン伝わってくる」とソアラ。
「アレをこの陣の中に落とそうと言うのだろう」とゲブラ。
「そうするとどうなるんだ?」とグレイガ。
「オレも見たことがないので定かでは無いが、あれが12王の盟約で使用を封印された大量破壊術式ならば、恐らく下にいた者は全滅だろうな。 爆発するのか、燃え上がるのか、消滅するのかは分からんが」
「そうしたら、ヤバイじゃないか。 アタシ等も死んでしまうよ」とソウラ。
「ああ、そうだな」とゲブラ。
「どうするんだ、ゲブラ」
「うまくいくかどうか分からないが、オレに考えがある」 そう言うと立ち上がった。
赤い光球は禍々しい稲妻を内部で盛んに発生しながら、どんどん成長しながら高度を上げていった。 直径は50メートルぐらいになったが、高度が500メートルを超えているため、下から見上げたらそれ程大きくは感じなかった。 ただそれを見上げた人々は敵も味方も、その不気味さに背筋が寒くなった。
サーウインは頃合いだと判断し、両手を光球に向けると、その手を静かに動かし紫の軍勢の頭上に誘導した。 そして一気に両手を地面に向けて降ろした。
赤い光球は稲妻を放出しながら、紫の軍勢めがけて落下していった。 紫の軍勢は騒然となった。 その場所を離れようと我先に逃げだした。
その時、ゲブラが紫の軍勢の上空にいた。 彼は両手を光球に向けると巨大な旋風を巻き起こした。 その暴風は光球の落下軌道を少しずつ帝国軍の方へずらしていった。
逆に騒然となったのは、帝国軍であった。 ぐんぐん赤い光球が迫って来るのを目の当たりにし、逃げようとして隣の兵士とぶつかる者、立ち尽くす者、腰を抜かす者など、収拾がつかなくなっていた。
慌てたのはサーウインも同じだった。 もう一度軌道を修正しようとしたが、もう間に合わなかった。
巨大な赤い光球は、帝国軍のすぐ前方に落ちた。 光球はまばゆい光を放ち弾けた。 周りは一面真っ赤な光に覆われた。 凄まじい爆風と衝撃と高熱が辺りを襲った。
どのくらいの時間が経ったのだろう。 赤い光が消えて辺りが見えるようになるとサーウインは立ち上がった。 サーウインがいた櫓は爆風で倒され、サーウイン自身もそこから振り落とされていたのだった。 サーウインは浮空術で空中に浮かぶと、周囲の状況を確認した。
サーウインは愕然とした。 紫の軍勢との間の戦場には巨大な穴が空いていた。 その直径は1キロほどで、吹き飛んだというよりは蒸発してしまったかのようだった。 辺りには高熱が立ちこめていた。 自軍の多くの兵が巻き込まれていた。 光球の直撃を逃れた者達も熱にやられ、多くが倒れて悲鳴やうめき声を上げていた。 紫の軍の方を見ると、向こうも倒れている者が多く見受けられたが、明らかにこちらよりは被害は少ないようだった。
(なんと言うことだ。 私のこの手で自分の軍を壊滅させてしまった)
サーウインは、この現実を受け入れられずに、ゲートを開くとレーギアに戻った。