19-1 紫の出兵
金のレギオンの王であり、ガーラント帝国の皇帝でもあるサーウイン・グロンウイルは不機嫌だった。 先ほど入った連絡で、支配下のアストリア王国が橙のレギオンの猛攻を受け、王都ブレアが陥落したと言うのだ。 その1カ月前には、南に位置するタイロン王国も橙のレギオンの支配下になってしまっていた。
(どいつもこいつも使えぬ奴らばかりだ。 50万もあった兵力も今やほぼ半数になっているし、私が直接出ていかなければいけないのか。 だが私がここを空ければ、紫の連中が出てくるのは間違いないだろう。 こうなったのも緑の王が生意気にも私の提案を断ったからだ。 緑のレギオンがオレジオンを攻撃していれば、慌てて兵を返すところを追撃して撃破できたものを・・)
「サーウイン様、如何いたしますか」ヒョロっとした青白い男が言った。
「北部方面軍から、10万を移動させ、南の国境近くで警戒させるのだ」
「しかしそれでは、北の備えが薄くなってしまいます」
「分かっておる。 ギスガルとメルー二アに出兵させ、北部方面軍に合流するように伝えるのだ」
「承知いたしました」
2週間後、ゴルドンのレーギア
「サーウイン様、紫のレギオンが動き出しました」 サムライのウラニス・コーフェルは報告した。
「慌てるな、規模は?」
「約6万の兵を3人のサムライが率いているとのことです」
「現在の北部方面軍はどうなっている」
「10万の正規軍とギスガル王国の2万、メルー二ア王国の2万の計14万です」
「誰が率いている?」
「アラン将軍とロンウエル将軍です」
「うむ、まあ彼らなら大丈夫だろう。 南はどうなっている」
「アストリアはほぼ全土、橙のレギオンに制圧されたようです。 このままでは来月には、帝国領にも侵攻してくるものと考えられております」
「国境近くの砦の防備を固めるのだ。 現状では2方面の同時作戦は無理だ」
「それともう一つ問題がございます。 橙のレギオンは占領地の住人を奴隷として使役しております。 そこから逃げ出した人々が、大挙してボスリアや帝国領へ難民として流れ込んでおります」
「難民を受け入れてはいけない。 一度受け入れたら際限なく入り込んでくるだろう。 その数は数10万人になり、たちまち我が国の食料は高騰し、食料不足を招くだろう」
「しかし、それでは人々の帝国に対する忠誠心が下がります」
「受け入れて、国内の食糧不足を招いたら、臣民の不満が爆発するぞ」
「かしこまりました」 ウラニスはそれ以上反論出来なかった。
「それから、もう一度緑のレギオンに使いを送るのだ。 今度は対等な同盟を結びたいとな。 これだけこちらが譲歩してやるのだから、よもや断るまい」
「承知いたしました」 ウラニスはそうは言ったが、気持ちは重かった。
(無理だ、恐らく緑の王は首を縦には振るまい)
ガーラント帝国の北部辺境
なだらかな起伏の続く大地を、異様な軍勢が南進を続けていた。 アデル族、人族は魔人族と呼ぶ人々だ。 角の生えた人々、手が4本ある人々、巨人の人々、全身長い体毛に覆われた人々など、人族からすれば異形の人々だった。 アデル族はそれらの人々の総称で、さらに細かく分かれていた。 その軍は種族毎に固まっていたが、その装備や武器はバラバラだった。 おおよそ2万ずつ3つの部隊に分かれ、3人のサムライによって率いられていた。 黙って行軍するその姿は、異様さと同時に恐ろしさも感じさせた。




