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18-12 戦わない戦い

 黒の王都から北西に15キロほどの丘の上、トウリンの部隊と、各種族の連合軍2万は、そこに陣地を築き動かなかった。 手前に柵を築き、空堀を掘った。

 そこから3キロほど東に、ギリオンが率いる5万の兵が対峙していた。 戦車は無かったが、機銃を装備した自動車が150台配置されていた。


 「ユウキ殿、攻めないのですか?」とアドル。

「基本的には、こちらからは攻めません。 重要な戦場は向こうです。 こちらは、あの増援軍が南に行くのを阻止するため、ここで牽制するのが目的です」

「向こうから攻めて来たらどうするのですか」

「その時は、彼らが痛い目をみるだけです」


 ギリオンの陣

 「将軍、奴ら攻めて来ませんね。 このまま動かないつまりですかね」 副官のマリルが声をかけた。

「そうかも知れない。 だがそうじゃ無いかも知れない。 奴らは南の戦場の決着に賭けているのだろう。 我らをここに釘付けにしたいのだ。 嫌らしい奴らだ」


 その時、兵士が駆けてきて、ギリオンに告げた。

「シーウエイ将軍から、至急援軍を送って欲しいとのことです」

「何だと、負けていると言うのか? 100両もの戦車があるのに? 黒の奴ら何をやった」 ギリオンは驚きの声を上げた。

「詳細は分かりません。 大至急とだけ、おっしゃっておられました」

「マリル、2万引き連れて至急向ってくれ。 自走車も100台持って行け」

「承知いたしました」

「クソッ、シーウエイの奴がやられているのはいい気味だが、もし負けでもしたらこっちまで責任を問われてしまうではないか」 ギリオンは拳でテーブルを叩いた。


 しばらくギリオンは考え込んでいた。

(もし南の戦場でシーウエイが敗れて、王都が奪還されでもしたら、こちらは撤退するしかない。 一度も戦わずに撤退などと言うことになったら、バラス様に怠慢だと責められるだろう。 それだけは避けなければならない)


 ギリオンは立ち上がると、もう一人の副官ベロスに命じた。

「攻めるぞ」


 緑のレギオンの陣

 「奴ら動き出しましたね」とアドル。

「こちらも攻めましょう。 うちの奴らもう戦いたくてウズウズしています」とアビエル。

「ダメです。 ギリギリまで引きつけて、弓や火球で攻撃する程度に留めます。 彼らは南の戦場が敗れれば撤退します。 お互いに余計な血を流さずにすむなら、それにこしたことはありません」とユウキ。

「そんなあ、ここまでやって来て戦わないなんて、アタシもうちの連中も欲求不満だわ~」とアビエルは不満げに言った。


 「ところでセシウス殿はどちらへ?」とアドル。

「あのオッサンなら、ここは退屈だからと私に押しつけて、別行動をしていますよ」とトウリン。

「さて、来るぞ。 配置に付け。 柵から先には通すな」トウリンは命じた。

 盾を並べた後ろに立った弓兵と火球のレム使い達が配置についた。


 銀の兵士達は、銃を撃ちながら、丘を登り始めた。 中腹辺りまで上った時点で、矢の斉射を受けて次々と倒れていったが、それでも勢いは止まらなかった。 火球の攻撃も加えられたが、効果は限定的だった。


 「さすがに3万が一度に来ると、厄介だな。 少し脅かしてやれ」とトウリン。

 10人ほどの兵士が筒を担いで、射線を確保出来る場所に移動した。 兵士は筒を肩に担ぐと、特に銀の兵が密集している辺りを狙い、バズーカを発射した。 次々と発射された砲弾は銀の兵の真ん中に着弾して爆発した。 爆音、巻き上がる土と煙、跳ばされる兵士たち。 銀の兵士達の悲鳴と共に、勢いは止まった。 そこに矢の斉射と火球の攻撃が再び加えられた。


 「何だ? 今のは、戦車の砲撃のようではないか。 あれが、シーウエイが苦戦している理由か」とギリオン。

「まずい、退かせるんだ」とギリオン。


 戦場に、退却を知らせるサイレンが鳴った。 丘を登っていた兵士達は一斉に丘を降り始めた。


 「あれあれ、もう退きはじめたぞ。 根性なしめ」とアビエル。

「あれで良いのです。 これでもう攻撃してこないでしょう」とユウキ。

「つまらな~い」


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