18-6 ザウロー王の苦悩
緑のレーギアでの会談の後、ザウローは南部の中核都市ジブラに入ると、その都市の首長や有力者を集め、自分が黒の王に即位した事を告げた。 そして自分に従うように求めた。 首長たちは、困惑の表情を浮かべたが、天聖球を所持しているのを見せられているので、黒の王であることは認めざるを得なかった。 有力者達は王から暗に受ける圧力から、反論する者はおらず、皆王に従うことを誓った。
ザウローは、すぐにジブラの人々に対して王として即位した事を宣言し、南部全域に使者を走らせた。
豪商の一人から、別邸の提供を受け、そこを臨時のレーギアとした。 数日するとそこへ、離散していた軍の兵士が続々集まってきた。 兵が集まることによってそれがまた有力者や都市への無言の威圧となり、ザウローの王しての存在感も高まっていった。
(あれから1カ月、とりあえず拠点はできた。 少し体制も落ち着いてきた。 だがまだこれからだ、油断はできない。 各都市も心から私を支持しているとは言えない) ザウローは臨時のレーギアの居室のソファーでこれまでの事を考えていた。 緑のレーギアでのスウゲンというサムライとの会話を思い出した。 ザウローが各都市を回って兵を集めると言うことを言った時だった。
「それではうまくいかないでしょう。 まず南部の中核都市を一気に押さえる事です。 都市の有力者に有無を言わせずにです。 武力を用いてはダメです、かえって反発を招くでしょう。 武力を背景に圧力をかけるのはありです。 そして速やかに南部一帯に即位したことを知らしめ、人々に立ち上がるように檄を飛ばすのです。 南部の都市に考える余裕を与えてはいけません。 スピードが命です」
その時にはその意味が本当に分かってはいなかったが、今なら良く分かった。 銀のレギオンのサムライ、シーウエイは王都を制圧すると、そこの統治体制を固めるためにしばらくは軍を動かすことが出来なかった。 そこでシ-ウエイは南部の各都市に使者を送った。
『南部に黒の王を騙る者が現れたと聞くが、その者は戦時の混乱時に天聖球を盗んだ偽王である。 王都ブラックストーンは、銀のレギオンの支配下で平和に統治されている。 銀のレギオンに対して恭順の意を表す都市に対しては、兵を送ることはしない。 住民は今まで通り、平和で幸福な生活を送れるであろう。 しかし、偽王に従う都市では、この世の地獄を見ることになるであろう。 よくよく偽王の言に惑わされる事無く、正しい判断をすることを勧める』
このような使者の言葉によって、動揺している都市も一つ、二つではないはずだ。 今は南部全体に王の影響力が及んでいるために、表だった動きをする都市は無かったが、これで銀のレギオンともう一戦して敗れたりすれば、雪崩をうって寝返る都市が出てくるだろう。
(今は泥の上に建てた城のような物だ。 いつ沈んでいくか分からない。 それにしても人が足りない。 優秀な部下が・・・)
ザウロー王のサムライは2人だけだった。 アーセル王のサムライだったカウラと自分の副官だったギーエンだった。 二人とも優秀な武人ではあったが、策謀には長けていない。 ギーエンは軍の再編を進めており、カウラは王都でレジスタンスを組織し活動していた。
そうしている所へ、王都のカウラから念話が入った。
「ザウロー様、カウラです」
「どうした」
「レジスタンスは組織出来ましたが。 銀の奴らがこちらの予想したような動きをしていません」
「具体的には?」
「兵達には綱紀粛正の厳命が出ており、街での強奪、強姦、賄賂、市民への暴力を禁止しております。 そのために兵達の行動には規律が有り、街中の様子も人々が拍子抜けするくらい静かなのです」
「街中で兵士に罵声を浴びせて石を投げ、市民に暴力を振るうように挑発するんだ。 兵士が単独で行動しているときに襲え。 そして兵士が市民に暴力を振るったら、話を大きくして噂をながして、住民の不安を煽るのだ。 それからなじみの商人を使って、シーウエイに賄賂を送るようにするのだ。 そしてシーウエイが私腹を肥やしている噂も流すのだ」
「承知いたしました」
「商人と接触するときには直接は絶対に避けろ。 シーウエイは切れ者だ、必ずお前まで辿りつくぞ」
「承知いたしました」 それで念話は終了した。
(ふう、これもユウキ殿の予想通りだった。 あの二人は未来が見えるのか? ユウキやスウゲンのような戦略を相談出来るような者がほしい。 ガエン殿が生きていたなら・・・)




