18-5 秘密兵器
1カ月後、セントフォレスト北の演習場
俺はユウキから見て欲しい物があると言われ、軍の演習場に来ていた。 演習場の周囲は高い壁で囲まれ、周囲にはレギオンの兵が警戒に当たった。 軍のレム使い達が索敵とレムによるのぞき見の妨害も行なった。 これに出席しているのは俺と警護班、セシウスとトウリンだけだった。 超機密扱いである。
俺がレーギアと演習場の間にゲートを開けると、そこから先日銀のレギオンからろ獲した戦車が入って来た。 アドル達は驚いた。 戦車はやがて俺達の前で止まると、ハッチが開き中からユウキが下りてきた。
「お前運転出来るのか」俺が聞いた。
「ええ、もう仕組みは分かりました。 動力はほぼディーゼルエンジンと同じですね」
俺達は近づいて装甲の黒い鋼板を叩いたりしてみた。 厚い装甲の車体に大きな砲塔、機関銃も備えてあった。 俺が知る戦車と違うところは、キャタピラではなく大きな6つの車輪がついていることだった。 良く見ると車輪はゴムタイヤではなかった。
「キャタピラは構造が複雑なのと重量が重くなるため採用しなかったのでしょう。 向こうのサムライは、初代王の図面から実現化したと言っていましたから。 車輪もゴムではなく、繊維で作った太いロープを編んで車輪に巻き付け、樹脂を染み込ませて固めています」
「これの破壊力はどの程度なのだ?」とセシウス。
「それをこれからお見せいたします」 そう言うと、ユウキは戦車に乗り込んだ。
戦車は向きを変えると、約2キロ先の岩山に付けられた大きな赤い二重丸に砲塔を向けた。 大きな爆音と共に砲身の先端から白煙が上がったかと思うと、赤い印のついた岩山が吹き飛んだ。 セシウスもトウリンもその威力に驚いた。
ユウキは戦車のエンジンを止めると、下りてきた。
「どうですか」とユウキ。
「想像以上の破壊力ですね。 これでは黒のレギオンが敗れたのも頷けますね」とトウリン。
「正直、この戦車の実力は、我々がいた世界の戦車の中ではひどい物です。 油圧の姿勢制御もないし、当然走行しながらの射撃など出来ません。 戦車同士の情報共有など言うまでもありません。 ですが、この世界では十分すぎるほどの脅威になります。 装甲はそこそこ厚いですし、普通のレム使いの火球程度では通用しないでしょう」とユウキ。
「どう対抗する」
「戦場を工夫するなど、やれないことはないですが、決定的な対策にはなりません」
「うーん、あれは手強いぞ」とセシウス。
「もう一つ見ていただきたい物があります」 ユウキは戦車の中から、長い箱を取りだした。
地面に箱を置くと、箱を開けた。 中には黒い筒状の物が入っていた。 その片方はラッパ状に広がっていた。
「これは、バズーカか?」
「そうです」
「ばずーか、とは?」とトウリン。
「やって見せましょう」とユウキは言うと、箱から筒を取りだした。 ユウキは砲身にロケッ弾を装填すると、300メートルほどの岩壁に向った。 片膝をついて肩に筒を担ぐと狙いを定めると、発射した。
“シュゴーッ”という音とともに筒の後ろから煙を吐き出すと、弾頭が壁に向って飛んでいった。 弾頭は岩壁にぶつかると爆発し、岩壁に大きな穴を開けた。
「おおっ!」 セシウスが声を上げた。
「これをお前が作ったのか?」と俺。
「ああ、厳密には俺が図面を書いて作ってもらった」とユウキ。
「凄い、これがあれば、その戦車に対抗出来るのではないですか」とトウリン。
「そうですが、これが1本、2本あっても全然足りない。 かといって量産するのは現状では難しい」
「なるほど、だが腕の良い職人を集めて出来るだけ量産するしかあるまい」とセシウス。
「しかもこれは、極秘に進めなければなりません。 決して銀のレギオンに気取られてはいけません」
「分かった。 飛空船のドックの隣に秘密の工場を建ててそこで密かに作らせよう」
「承知いたしました」