18-2 黒の王
「カケル王も既にご存知かも知れませんが、我々は先日銀のレギオンと戦いになりました。 そして残念ながら敗れてしまいました」 ザウローは開戦から現在までの状況を説明した。
黒の王都の北での戦いは、圧倒的な力の差で銀のレギオンが勝利した。 アーセル王も緑のレギオンとの戦いでの傷が残る体で戦ったが、更に重傷を負ってしまったのだ。 サムライのガエンは兵の撤退のため、自分を犠牲にして戦場を火の海にした。 その後銀のレギオンは王都での防衛戦を行なったが、3日後陥落した。 そしてアーセル王も無念のまま亡くなったのだった。
「それで貴方はどうされていたのですか?」
「私は貴方との戦いの後、傷の治療と敗戦の責任を取らされ謹慎中のため、参戦は認められなかった。 そして王都が陥落する寸前、アーセル王に呼ばれたのです」
8日前、黒のレーギア
「来たか、ザウロー。 もっと近くへ」 アーセル王が弱々しい声で言った。
「アーセル様、お気をもっと強く」
「私はもう持たない。 カウラ、あれを」 王は隣にいたサムライのカウラに言った。 カウラは黒い箱を持って来た。
「あれは・・・」
「天聖球だ。 次の王はお前だ。 良いか、絶対に奴らに渡してはならない。 そしてお前とカウラで強いレギオンを復活させ、奴らを追い出すのだ」
「アーセル様そのようなことをおっしゃらないでください」
「もうすぐここも落ちる。 それを持って今のうちに逃げろ」
「嫌です」
「バカ者、これは王としての最後の命令だ。 それから、緑の王を頼れ」
「えっ、何故です」
「あの王は“竜朋”だ。 きっと我らを助けてくれる。 私は戦う相手を間違えたようだ。 恥も外聞も無く頼み込むのだ」
「アーセル様」
「もう時間がない。 さあ行け」 そう言うとアーセル王は、静かに目を閉じた。
「それでは、今の黒の王は」
「私だ」とザウロー。
「それで、我々に何を求めるというのですか」
「我々との同盟です。 私は、これから王都から南部の各都市で兵を再編するつもりです。 そして奴らから、王都を奪還するつもりです。 その時にカケル王に手を貸していただきたいのです」
「おっしゃることは分かりました。 だがここで即答することは出来ません。 検討する時間をいただきたい」
「分かりました。 是非、お力をお貸しください」 ザウローは俺に頭を下げた。
「ご期待に応えられるかは、分かりませんよ」
「ところで、一つ伺いたいのですが・・・」とザウロー。
「何でしょう」
「カケル王とはドラゴンが一緒におられたと思うのですが、どうして居られるのでしょうか」
「えっ、グレンですね。 私と一緒に暮らしておりますが、それが何か」
「会わせてはいただけませんか」
「何故でしょう」 俺は少し訝しんだ。
「私がどうすれば良いのか途方に暮れていた時、一人の占い師が私に言ったのです。 『西に新たな竜王が誕生した。 西に向え』と」
俺とグレンが顔を合わせた。 グレンが頷いた。
「グレンは、貴方の目の前におりますよ」
ザウロー驚いて大きく目を見開くと、カケル王の後ろで睨んでいる少年を見つめた。
「この少年があの黒竜ですと。 人に変身していると言うことか。 とすれば、竜王になったドラゴンとはやはり・・・・」 ザウローは急に立ち上がり、テーブルを回ってグレンの前に立った。 グレンは身構えた。
すると驚いたことに突然、ザウローが土下座したのだ。
「竜王様、どうか我らにお力をお貸しください。 ドラク族は今存亡の危機にあります」
「ボクにどうしろと言うのだ」
「私と一緒においでいただき、民衆を鼓舞していただきたいのです。 民衆は今、皆打ちひしがれております。 竜王様が現れて民衆を鼓舞していただければ、勇気を取り戻し、武器を持って立ち上がるでしょう」
「断る。 ボクは前の竜王から、人の争いには極力関わるなと言われている」
「ですが、貴方はこのカケル王のために戦われたことがあるではありませんか」
「カケルは特別。 カケルはボクの家族だ。 カケルの敵はボクの敵だ」
「そうですか、分かりました」 ザウローは肩を落としたが、俺の方に向き合うと改めて言った。
「同盟の件、よろしくお願いします」




