18-1 訪問者
ユウキ達を救出した次の日の会議で、新たな情報の報告があった。
「本日入ったばかりの情報ですが、黒のレギオンの王都ブラックストーンが陥落しました。 アーセル王も亡くなられたと言う情報もありますが、真偽は定かではありません」とユウキ。
「では黒のレギオンは、銀のレギオンの支配下となったと言うことか?」とトウリン。
「まだ分かりません。 王都が制圧されている以上、テリトリー全体が支配されるのも時間の問題かと思われます」
「では銀のレギオンの次の標的は我々と言うことか。 つい最近もめたばかりだしな」とセシウス。
「天聖球はどうなったのだろう」
「分かりません。 ただし、向こうに渡ったとも聞いてはおりません」
「いずれにしても、奴らがこっちに攻めて来るまでには、もう少しかかるだろう。黒の件が落ち着くまでは、こちらに手を出さないだろうからな」とセシウス。
「では、とにかく黒のレギオンの動向に注意しておいてください」
「承知いたしました」とユウキ。
一週間後、夜の砦
月夜の空を一人の男が飛んでいた。 男は砦の上空を旋回した。 どうしようか、ためらっているようだった。 やがて男は、意を決すると静かに砦の広場に下りて行った。
広場には、槍を持った兵士が2人、巡回していた。 男は兵士を驚かさないように、わざと前から静かに降り立った。
兵士達は驚き、槍を構えた。
「何者だ!」
「怪しい者ではない。 この砦の責任者に会いたい」 男は敵意が無いことを示すために、両手を挙げた。 しかし、その行為を攻撃するためと勘違いした兵士が、慌てて笛を吹いた。
「くせ者だ! くせ者だ!」
笛の音を聞いた兵士達が、建物から次々と出てきた。 兵士は両手を上げた男を取り囲むと言った。
「何者だ」
「私は敵ではない。 この砦の責任者に会わせてくれ」
「怪し過ぎる、取り押さえろ」 兵士達が徐々に包囲の輪を狭めていった時だった。
「待て、手を出すな」 命令したのは建物から出てきた、指揮官とおぼしき男だった。 指揮官は男の前に出ると、月明かりの中で男の顔を見つめた。
「私はこの砦を預かるベルガーと言う者だ。 貴方はもしや・・・」
「お会い出来てうれしい。 私は黒のレギオンの・・・・」男は名のった。
レーギア、王の居室
俺はファウラと夕食を済ませた後、部屋でくつろいでいた。 そこにジュリアンが入ってきた。
「カケル様、たった今砦から連絡が入りました。 砦に訪問者です。 カケル様に面会を求めております」
「砦に? 誰だい」
「ザウロー・シエンです」
俺は砦までゲートで移動した。 一人で来るつもりだったが、ジュリアンが猛反対して、しょうがないのでジュリアンが随行することを許した。 グレンもついてきた。
砦に着くと、砦の守備隊長ベルガーが出迎えた。
「ご苦労様。 ザウロー殿はどちらですか」
「はい、会議室の方におります」
会議室に入ると、ザウローが一人で座っていた。 以前に見た時よりもやつれた感じがした。
「ザウロー殿、どう言うことでしょうか。 我々は一緒に酒を酌み交わす友人と言うわけでも、なかったと思いましたが」 俺は相手の意図がまるで読めなかったので、慎重に話した。
(いずれにしても、良い話しではないよな。 やっぱり、ユウキも連れて来るんだった)
「カケル王、こちらの無理なお願いを聞いてお会いいただき、感謝いたします」
「まあどうぞおかけください」 ザウローは初めてあった時の傲慢さは微塵もなく、まるで別人のようであった。 そこへジュリアンがお茶を持って入って来た。
グレンは俺の後ろに少し離れて、ザウローを睨みながら立っていた。
ザウローは言いにくそうにしていたが、やがてゆっくりだがしっかりとした口調で話し始めた。
「カケル王、こんなことを言えた義理ではないことは十分に分かっております。 しかしあえてお願いします。 我々を助けてください」
「・・・・・・」