17-8 奪還作戦(4)
俺達は街道の両脇にある林の中で、3台の戦車が通るのを待ち構えた。
3台の戦車が林の中に入ったところで、アドルが先頭の戦車に雷撃を加えた。 戦車は鋼鉄の装甲に火花を散らすと、エンジン音が止まり、動きを停止した。
3台の戦車の上部ハッチが開くと、兵士が上半身を乗り出し機銃で林の中を乱射し始めた。 俺達は草藪の中に伏せて身を隠した。
銃撃が途切れたところで、レオン、アビエル、ハルが同時に跳びだした。 ハルが先頭の戦車の男に忍者のような素早さで飛びかかると、ナイフで男の頸動脈を切り裂いた。 レオンは剣を抜いて戦車に飛び乗った。 兵士は慌てて機銃をレオンに向けようとしたが、レオンが剣で兵士を斬る方が早かった。 3台目の兵士がレオンを撃とうとしたが、その時機銃に鞭が絡みついた。 アビエルが鞭を引くと機銃が空に向ってカタカタカタと弾丸を発射し続けた。 アビエルは左手でナイフを投げると、兵士の胸に突き刺さった。
中に乗っていた他の6人の兵士達は、武装解除されて外に出された。 だが中にユウキとホーリーの姿はなかった。
「どう言うことだ。 これが本当の護送チームじゃなかったのか」
「少しお待ちください、カケル様」 スウゲンはそう言うと、捕らえた兵士の前に行くと、兵士の目を見つめてから言った。
「護送中の捕虜はどこへ行った」 兵士は目がうつろになると、ゆっくり話し始めた。
「昨日までは、この戦車に乗っていた。 今日の未明に荷馬車の荷台に載せられて先発している。 今頃はもう川を越えているだろう」
「クソッ、もう一ひねり入れてやがる」とレオン。
俺は川の辺りを警戒している飛竜の兵士に念話を送った。
「近くに荷馬車がいるはずだ。 探してくれ」
しばらくすると、川の付近を飛行していた飛竜の兵士から念話が入って来た。
「カケル様、街道を少し離れたところから、橋に向ってくる馬車が一台見えます」
「分かった、ありがとう」
「見つけた。 私は先に行く」そう言うと、俺は空中に浮かび上がった。 グレンも同じように浮かび上がった。 俺達は全速で北に向った。
数分後、荷馬車が川の手前の街道を橋に向って進んでいるのを見つけた。
俺は一気に馬車の幌の上に飛び降りた。 御者は本当の農夫のようで、驚いて馬車を停めた。 中から5名の兵士が出てきた。 銃を一斉に俺に向けると撃ってきた。 俺はシールドを張って弾丸を防ぐと、右手から旋風を放って兵士達を一瞬で吹き飛ばした。
俺は馬車から飛び降り荷台の中をのぞいた。 そこには二つの塊が横たわっていた。 俺は確信した。 塊は布にくるまれていたが、恐らくレムを遮断する効果があり、念話を阻止するためのものだろうと思われた。 そしてその側には一人の兵士が銃を二人に向けていた。
「近づくな。 それ以上近づいたら、殺す」兵士が言った。
その時、包みの小さい方が突然裂けて、縛られた足が飛び出し、兵士の銃を蹴り上げた。 兵士はその拍子に引き金を引いてしまったが、銃弾は幌の天井を突き抜けていった。 包みから立ち上がったのはホーリーだった。 ホーリーは立ち上がると、手かせをはめたまま、手にした小さなナイフを兵士の胸に突き立てた。 兵士は胸を押さえながら、そのまま前に倒れ落ちた。 俺は二人の枷を外してやった。
「遅いぞ!」とユウキは体のこわばりをほぐしながら言った。
「のんきな奴だ。 こちらの気も知らずに」
「すまない、俺のミスだ」とユウキ。
「とにかく二人とも無事で良かった」
俺はセシウスやトウリン達に念話で、無事二人を確保したことを伝えた。
「それじゃあ、全員撤収だ」
「あの戦車はどうしますか」とスウゲン。 俺はユウキの顔を見た。
「あれをろ獲したのか? 是非、持って帰りたい」とユウキ。
「ユウキが、おもちゃを持って帰りたいと駄々をこねています。 私が戻ってゲートでレーギアまで運びます。 兵士は解放してください」
「承知いたしました」
こうして、奪還作戦はなんとか成功することが出来たのだった。




