17-3 銀と黒の戦い
その夜、ユウキが部屋に来た。
「どうしたんだ、こんな時間に」
「銀のレギオンが黒のレギオンに侵攻を開始した」
「何だって」
「戦場は恐らく、黒の王都の北、開戦は20日後ぐらいだろう」
「そうか、どちらが勝つと思う?」
「銀のレギオンだな」
「何故?」
「銀のレギオンは金のレギオンに匹敵する軍事力を持つと言われている。 それなのにこれまで目立った動きをしてこなかった。 王が慎重で、必ず勝てる戦いしかしないのだと思う」
「つまり今回は必ず勝てると思ったと?」
「そうだろう、黒は俺達との戦いで大きな痛手を被った。 そこを付け入られた」
「それで、どうしたいのだ? こんな話をするだけなら、明日の会議の席でも十分だったはずだ」
「見に行きたい」
「何だって」
「この目で戦闘しているところを見てみたいのだ。 ザウフェルの話では戦車のような物を持っているそうだ。 それがどんな物で、どの程度の破壊力があるのか、動力は何なのか、どのような戦術を使うのかを知りたいのだ。 次に銀のレギオンと戦うのは俺達だ。 敵の戦術内容によってこちらの対応策も変わってくる」
「お前の言いたいことは分かる。 だが危険過ぎる」
「良く言うよ、お前はどこにでもホイホイ行くくせに」
「ぐっ、それは・・・」
「別に責めてはいないよ。 ただ、今回は俺の番だ」
「分かったよ。 だが一人では行かせない。 ザウフェルと一緒に行くと言うのはどうだ」
「それはダメだ。 ザウフェルは貴重なアセットだ。 一緒にいるところを見られる危険は冒せない」
「では俺の警備班をつけよう」
「だめだ、大人数はかえって目立ちやすい。 一緒に行くとしたら1人だけだな」
「では、ホーリーを付けよう」
「良いだろう、これで決まりだ」
19日後、黒の王都の北50キロの荒野
ユウキとホーリーは、広い範囲が見渡せる丘の上に伏せていた。 二人はあちこちに草を差し込んだ網を被って偽装していた。 ユウキは今回の件が決まると、毎日飛竜に乗る練習をした。 そして2日前、砦までホーリーと二人で飛んで来たのだった。 そこから更に昨日、砦を飛び立つと途中で野宿し、今朝早くに着いたのだ。 背後の森に飛竜を隠すと、戦場になると思われる場所が良く見える場所を探し、監視体制に入った。
戦場までは約2キロ、両軍は既に対峙していた。 黒のレギオンは、歩兵を中心とし、騎兵と弓兵を配したオーソドックスな陣立てになっていた。 兵力は総数8万と言うところだろう。 一方の銀のレギオンは、箱形の車両のような物が100両以上、前面に出ていた。 その後ろに歩兵が整列していた。 歩兵は5万前後だろうと、ユウキは見積もった。
開戦は10頃だった。 銀のレギオンの車両部隊が前進を進め、備えた砲塔から一斉に砲弾を発射した。 黒のレギオンの兵団までは1キロ以上あったが、兵達の真ん中に次々と着弾し、爆音、土煙と共に兵達が吹き飛んだ。 その車両(戦車)はキャタピラーではなく6つの車輪を備えていた。 走行しながらの砲撃なので、狙いはまちまちになるが、着弾がばらけて、かえって大きな損害を与えていた。
ユウキは小型の望遠鏡でのぞいていた。 これもユウキの手作りのため、性能は良くなかった。
(なるほど、戦車の後ろから煙のようなものが出ているから、動力はレムではなくて内燃機関のようだ。 装甲はどうなっているのだろう。 砲弾の射出には火薬を使っているのだろうか。 ああ、このポンコツ望遠鏡ではだめだ。 もっと近くで見たい) そんなユウキの気持ちを察してか、ホーリーが小声で言った。
「ユウキ様、ダメですよ。 これ以上は。 これでもいつ見つかってもおかしくはないのですから」
「うーん、もう少し、どちらも戦闘に夢中で、こちらに注意が向かないだろう」
「いけません」
戦闘は激しくなっていた。 戦車の砲撃で混乱したところへ、歩兵達が持つ銃で追い打ちをかける形だ。 黒の兵達は、銀の兵にたどり着く前に次々と倒れていくのだった。
(これは、一方的な戦いになるな。 自衛隊が戦国時代にタイムスリップするという映画が昔あったが、まさにそんな感じだ) ユウキは思った。
黒の兵の中には、火球で攻撃する者もあったが大きな効果は期待できなかった。 すると、黒の陣営から黒い飛翔体が銀の戦車群の中に降り立つと、次の瞬間大きな火炎爆発がおこり、半径500メートルの範囲を火の海にした。
「何だ、今のは。 何をやったのだ?」 思わずユウキは立ち上がった。
その時だ、近くの地面から突然、銃を持った兵士達が現れた。 10人ほどの兵士がユウキ達を銃で狙いながら取り囲んだ。
「ちいっ、私としたことが」 ホーリーは唇をかみながら剣を抜いた。
(クソッ、油断していた。 彼らはこちらの行動を予測して、事前にここに潜んでいたのだ。 向こうにも切れ者がいる)
「動くな! 武器を捨てろ」 兵士の指揮官と思われる者が命じた。
(逃げることは無理か、その切れ者が手配したのならば、更に逃がさない策を講じているはず)
ホーリーが血路を開こうとしているのが分かった。
「止めるんだ。 ここは従うしかない」とユウキ。
ホーリーはユウキの顔を見つめた。